再会
軍人風の鍔付き帽子に漆黒のマントを羽織り、鍛え上げられた肉体の上に薄い黒のTシャツを着た大男が、ずぃ、と歩を進めた。
美形、と言ってもいい整った顔をしていたが、右の眼の横から、がっちりした顎にかけて、刀傷らしい一本の傷があった。
頑丈そうな顎は、美形の顔の四分の一ぐらいを占めていて、非常にインパクトがある。
「御機嫌よう、お嬢さん。
俺の言いたいことは判っているな。
さぁ、背中の妖精をこっちに渡せ…」
「さぁ…、じゃあ、僕が受け取りに行きましょうか?
プルートゥ様は、ちょっとご婦人には肉圧が高めですからねぇ」
キャサリーンは、一歩、退く。
パトスは、キャサリーンの前に出て、低く唸ったが…。
「ほらほら、ワンちゃんも、チェコ君がいなくちゃ、スペルカードも使えないでしょ…。
もう、諦めて…。
平和にいきましょうよ、ねぇ?」
タッカーは、にこやかに首を傾げた。
「タッカー君、あなたは騙されているのよ。
このプルートゥって男は、スペルランカーなんかじゃないわ。
汚い戦争屋なのよ。
あなた、国内戦でベスト八になった有望新人なんでしょ。
こいつの汚れ仕事になんて手を染めたら、あなたの未来はドブの中よ」
タッカーは、ハハッと笑った。
「僕は子供じゃない。
プルートゥさんが実戦の勇者だってことぐらい、知っているさ。
僕の目指す未来は、宮廷の騎士ごっこなんかじゃなく、現実的なウォリアーになることなんだ!」
スペルランカーはルールに基づいて戦うが、無論、その外側には、血みどろの戦いの世界もある。小さな諍いならば、今でも世界中で、スペルを用いた殺し合いは行われていた。
タッカーは凄惨に笑った。
そして、ずいっ、とブーツを踏み込むと、キャサリーンの背負った箱に手をかけた。
「あなた、判ってるの?
妖精殺しは、十年や二十年の懲役刑じゃすまない大罪なのよ!」
タッカーの動きが止まった。
「えっ?
妖精殺し?
嫌だなぁ、僕たちの仕事は、まっとうな株式会社のマッドスタッフさんから盗まれた妖精を助け出すことで、妖精殺しなんて大それたことじゃ、ありませんよ!」
キャサリーンは、胸ポケットから身分証を取り出した。
「あたしの表の顔はスペル開発業者だけど、もう一つ、持っている顔は、国際魔法監視機関エリクサーのメンバーなのよ。
全てのアースと神にかかわる不当な事象を調査しているの。
マッドスタッフは、妖精殺しのために、このハナを誘拐した証拠があるわ。
さて、君はどうするの?
話を聞いた上で、その男に手を貸すのなら、あなたも妖精殺しの同罪よ」
タッカーは立ち尽くした。
「そんな…」
プルートゥが、低く笑った。
「OK、OK」
子猫をあやすような優しげな声で、大男は語りかけた。
「タッカー。
お前は首だ…。
さて、妖精を渡さなければ、今すぐ、お前ら全てを焼き払う。
OK?」
言うと、プルートゥは、大きな顎を撫でながら、ニカッ、と笑った。




