出発
「チェコ。
お前は村に戻っているかな」
ウェンウェイは、チェコに促した。
「大丈夫なの?」
チェコが聞くと、ウェンウェイは頷き、
「お前のお陰で、全ては上手く運ぶかな」
そっか、とチェコは納得して、村に戻った。
レンガの館の大広間に、皆は集まっていた。
「チェコ君、ウェンウェイさんの方が片付いたなら、君も少し休みなさい」
キャサリーンに言われ、二階に案内される。
長い廊下沿いの一室をあてがわれた。
大きなベッドがある寝室だ。
チェコは、倒れるようにベッドに吸い込まれていった。
「チェコ!
チェコ!」
揺り起こされると、窓の外は、すっかり闇に覆われていた。
タッカーに起きるよう言われ、チェコは熟睡中のパトスを抱いて一階に降りた。
大きなチェストがテーブルの三方を囲み、もう一方は夜の庭が窓一杯に広がっていた。
遠くは暗くて判らないが、窓際には真っ青な花が一面に咲き広がっていた。
テーブルには大皿に目玉焼きやソーセージ、温められ焼き目のついたパンなどがどっさりと並んでいた。
「さー、早く腹をいっぱいにしろ」
とタフタも、珍しく酒も飲まずに、モリモリと食事を取っている。
食べ物の匂いに目を覚ましたパトスと共に、チェコも肉やサラダをガツガツ食べた。
皿に乗った四角いパンは卵で甘く味付けされており、湿っていてメチャクチャ美味しい。
夢中で食べていたチェコたちだが、
「よし、では食べながら聞いてくれ。
敵をこの村で防ぐ予定だが、我々は一足先にエルフ道を通って街道に急ぐ。
何故ならば、俺たちが山を出れば我々の勝ちだからだ。
俺たちがここにいると、村の連中も戦いずらいのだ。
後三十分ほどで出発するから、荷物を準備していてくれ」
急な話だった。
チェコは上に戻り、荷を取って降りると、水筒に水を満たした。
二食分の弁当を渡される。
え、と気がつくと、キャサリーンとヒヨウだけであり、タフタもミカもタッカーもウェンウェイもいない。
「え、どうなっているの?」
「タッカーたちはスペルランカーとして戦ってもらう。
パーフェクトソルジャー対策には、どうしてもマジックキャストが必要なのだ。
タッカーも、山道を歩くより、その方がいいと言うしな。
タフタも戦闘員として残ってもらい、俺たち三人が夜を徹して歩き、早朝には街道へ出る。
こうすれば、敵も二分され、勝ち目も大きくなるのだ」
ヒヨウは説明した。
「じゃあウェンウェイさんは?」
チェコの問いにヒヨウは首を振る。
「チェコ、ウェンウェイは帰ってこなかった。
彼には、彼の目的があるんだ。
我々は我々の役目に徹する」
まさかプーフが、ウェンウェイの首を取ったのだろうか…?
しかし、もう何時間も前の話であり、チェコにはどうしようもなかった。
「よし、では出るぞ!」
ヒヨウは館を出て、白漆喰の壁の一角が切ってあるところに進み、漆喰の壁の一部を押した。
と、壁がギィ…、と開いていく。
「ランプを出してくれ。
地下道をしばらく進む」
チェコたちは、夜より暗い闇の道に入っていった。




