迫る本隊
「でも、どうして雷は賢者の石に吸い取られたのに、地走りは当たったんだろ?」
自分で攻撃したのだが、チェコは首を傾げた。
「…たぶん、地走りは地面を走るスペルだから、ピンキーは戸惑ったんだろう…」
とパトスは考えた。
だが地走りは一山いくらで買ったスペルなので、三枚しか無かった。
今、使ったので、残りはニ枚だ。
そう、大安売りも出来ない。
ピンキーは、壊れた筒を捨て、背中から長剣程の長さの短い槍を引き抜いた。
「熊、召喚!」
チェコは、ピンキーを対象とするスペルは封じられてしまったため、熊を出した。
しかし人間に対しては、召喚獣の攻撃力は半分になってしまうため、熊もピンキーには大した牽制にはならない。
花クラゲを自分の近くに引き寄せながら、チェコは仕掛け矢を出した。
「底無し沼は、ピンキーが対象じゃ無いよね?」
「…奴の近くに飛んだスペルは、吸われる恐れがある…、一枚しかないカードを無駄にするな…」
パトスが教えた。
腰には、第三、四のスペルボックスに二百五十枚のカードがあるというのに、チェコが使える手札はささやかなものだった。
「大地のアース!」
チェコは、アースを増やした。
ピンキーは槍を構えているが、用心深く動かない。
と、タフタが大弓を射った。
鋭い矢がピンキーを襲うが、ピンキーは槍で矢を叩き落とした。
「三人で包囲した方がいいかな?」
チェコは前進しようとするが、
「、、注意して、チェコ、左腕や右手も近くにいるはずよ、、」
と、ちさが教える。
ぬぅ…、とチェコは唸る。
「後ろから軍が迫っているのに、ピンキーたちに足止めされるとは!」
森のリスを召喚し、ウサギも二匹、出した。
「そして怨霊と、ダンウィッチの煙、召喚!」
チェコは、十秒過ぎると飛行の出来る二体を出し、
「二人とも、森を飛んで、左腕と右手を探して!」
二体の霊と煙は、チェコの左右に別れて飛んだ。
灰かぶり猫は、策を使う。
だから迂闊に突っ込んで策にはまると、大変な事になる。
だが背後には軍と、マッドスタッフが迫っていた。
これは本隊である以上、キャサリーンのようなカード設計者、つまり魔法使いもいるものと見て間違いはない。
それを考えると、これ以上、モタモタは出来なかった。
「くそぅ…」
チェコは唸りながら、ウサギと多産の女王を召喚した。
「、、堪えなさいチェコ、、策に嵌まれば、全てを失うのよ、、」
と、ちさ。
だが、どの道、破滅の時は近づいている。
チェコは、エルミターレの岩石を出し、多産の女王に出産させた。
ポトリ、とウサギが二匹、生まれ落ちた。
チェコは、顔を動かさずに、左右を見た。
怨霊もダンウィッチの煙も、帰ってこない。
仕方ないか…。
と、チェコは溜め息をつき、
「ウサギ六匹を生け贄に捧げ、そして俺のライフ四を削る。
召喚、呪われた石像!」
十/十の石像が姿を現した。
「行け! 石像!」
呪われた石像は、アースでは召喚できない特殊なカードだ。
十の命でのみ、召喚できる。
その代わり、召喚したターンに、飛行と同等の射程を持つため、召喚出来れば強い。
リアルバトルで使ったのは初めてだったが、巨体な石像が矢のようにピンキーに向かって飛んでいった。
その大きさは、ハンザキより一回り大きい。
ピンキーは、賢者の石をかざしたが、現実化したアイテムは物体のため、ピンキーの仕様の賢者の石では吸い込むことは出来ない。
十/十の召喚獣は、リアルでも五/十のパワーであり、決して優しいダメージでは無い。
「うわっ!」
ピンキーが慌てた瞬間、木の中に隠していた、山猿が、ピンキーの手から賢者の石をもぎ取った。




