賢者の石
「蛇が来る!」
チェコはピンキーから後退りながら、スペルを発動した。
こんな山の中なら大量の蛇が集まるはずだ。
そして大女だが、ピンキーも女、女性は大抵、蛇を嫌がる、とチェコは考えた。
早速ー。
ピンキーの頭上から、どさり、と一抱えはある大蛇が落ちてきた。
よし、隙が出来るぞ、とチェコは、次のスペルを考えるが…。
「おや、旨そうな蛇じゃないか。
あたしゃ、昔から蛇が大好物でねぇ」
言いながらピンキーは、ブーツで蛇の頭をおさえると、ひょいと持ち上げ、近くの木の幹にビュンと頭を打ち付けて蛇を殺すと、あっ、という間に生皮を剥ぎ、厚化粧の顔で蛇の胴体に噛みついた。
ドロリ、と顔が蛇の血で真っ赤に染まった。
真っ赤に染まった顔でピンキーは、ニタリと笑う。
チェコは舌打ちしながらも、
たたみかけるんだ! と、心で叫び、雷を発動させた。
チェコの頭上で閃光が瞬き、ピンキーに突き刺さる。
が、ピンキーは片手を高く突き上げた。
バンッ、とピンキーが片手に持ったものが、チェコの雷を吸収した。
「な…、なに…!」
愕然とするチェコ。
ケケケとピンキーは笑い、
「スペルとか、そーゆー玩具は、あたしにゃあ効かんのだよ、坊や。
この石は賢者の石って言ってねぇ、とっても高価なお宝なのさ。
全てのスペルは、この石が吸い取ってくれんのよキャハハハ!
最高だろ?」
言って、ピンキーは筒を構えた。
「あんたはチョコマカ煩すぎるんだよ、死にな坊主!」
「油だまり!」
チェコは叫んだ。
瞬間、チェコが油で、ツルンと滑って倒れた。
チェコの鼻先を、炎が吹き出た弾丸が、通過した。
「消滅!」
チェコを転ばせた油が、一瞬で消えた。
と、同時にチェコは、横に跳んだ。
「花クラゲ!」
どん、と空間が微かに爆発し、二/二のクラゲが空中に浮かんだ。
「ブァーカな餓鬼め!
そんなクラゲなんて焼いて食ってやるわ!」
チェコは、クラゲの横に跳び出し、
「地走り!」
チェコの足元から、火の柱がピンキーまで伝い走り、赤い髪の女が燃え上がった。
と、どう、とピンキーの持っていたアイテム、爆弾筒が、瞬間、引火して吹き飛んだ。
ガン、と火柱が上がった隙に、チェコは近くに落ちていた兵士の二つの弓と矢束を掴み、タフタとキャサリーンの方向に一目散に走っていった。
「糞餓鬼めっ!」
ピンキーがわめいている。
やはり、あれぐらいでは死なないらしい。
チェコははタフタに駆け寄ると、
「タフタ!」
言って弓と矢束をタフタに投げた。
おう、とタフタが大弓を掴むと、チェコはクルリと振り返った。
「くそぅ、あの変な石がある限り、スペルが使えない!」
と唸った。
「…賢者の石、ダリア持ってた…」
とパトス。
チェコはポカンと、
「え、何でダリア爺ちゃんが?」
「…馬鹿チェコ、賢者の石は、本当は錬金術師が使うもの…。
お前がふざけて、机を溶かそうとして、火事になりかけた事もあった…!」
チェコは一瞬、考え。
「おー、あったね、そんな事も。
確か、机がクソ重いから、液体化して動かそうとしたら、何故か燃え出しちゃったんだっけ?
あれ、あの石なの?」
「…そうに決まってるだろ、馬鹿チェコ…!」
「えー、だってスペルを吸いとるんだよ?
ダリア爺ちゃんと使い方が違うじゃん!」
「あれは今、吸い取る、にチューニングしてある。
物を様々にチューニングするのが賢者の石!
ピンキーは馬鹿だから、ただ吸い取る、事にしか使えないだけ…」
「おー、なるほどぅ…」
とチェコは納得する。
そして、企んだ笑いを浮かべ、
「馬鹿が賢者の石なんて似合わないよね」
と瞳をギランと輝かせた。




