強奪
チェコとパトスは、成犬になって森を駆け抜けた。
ほとんど下生えも無い、人の手の入った森だ。
だが、わざと草を生やした場所もある。
利用価値の高い草を育てているのだ。
そういう草に飛び込み、隠れながら、チェコは木立ちの間を縫って駆け抜けた。
目的の親木は、ほぼ真正面だ。
「罠らしい罠はないね…」
チェコは言うが、
「まだ判らない、気を抜くな!」
と、パトスは叱咤する。
うーん、とチェコは考え、
「でも、ちょっと変な気もするんだよ。
弓を打って来ないだろ?
ピンキーたちなら、絶対、俺たちの事、判るよね?」
「直接は見せていない。
だが、左腕は漁村で見た可能性はある」
とパトス。
「、、引き付けて狙うつもりかもしれないわ、、」
ちさは、言った。
だが、獣の足で森を直線に走ったので、もう親木までは百メートルの距離にまで近づいていた。
「召喚、スズメバチ!」
チェコ走りながら、極力離れた場所に召喚獣を出し、チェコたちや狼とは別ルートで親木に接近させた。
チェコたちは一直線に向かって行く。
が…。
左の狼が、不意に、どん、と爆発した。
「何だ?」
癇癪玉のようなアイテムの気がするが、明らかに強い…。
「、、チェコ、もしかすると、あれは軍事用のトラップかもしれない、、」
ちさが語る。
軍事トラップ!
「と、いうことは後ろの部隊から?」
「考えられる。
一人、弓手を先行させて俺たちを追い越し、親木に陣取った。
森は手入れの行き届いたもの、昼間なら別に道を通らなくても問題ないし、まして兵士なら簡単に作戦を遂行できる」
とパトス。
チェコたちの前の狼も、どん、と弾け跳んだ。
なにか、強力な爆発物のようだ。
右を走っていた狼を、チェコたちの前に移動させた。
すると…。
ピュン、とチェコたちに向け、矢が飛んできた。
パトスが瞬間、左に跳んで矢を交わした。
「敵は、俺たちのどれが本物か、見定めていたのか!」
そうとは知らず、狼を動かしてしまったので、チェコたちの位置がバレたらしい。
しかし、矢を交わした事で、チェコたちは五十メートルまで親木に接近した。
「召喚、見えない壁!」
チェコたちの前に、全く透明な壁が現れる。
瞬間、壁にカチンと矢が当たり、弾け跳んだ。
「え、二の矢が、ほんの数秒で飛んできたぞ!
弓手は一人じゃ無いのか?」
タフタによると、大弓は一メートルを越える弓を目一杯引き絞らなければ射れない。
相当に鍛えなければ難しい弓らしい。
一人で、数秒で二の矢を射れるものではない。
「だけど、そんなに何人も乗れるほどの木じゃ無いよね?」
親木とはいえ、普通の森にあれば、むしろ若い木といえた。
少し前に歩いた湿原では、根ごと倒れた大木を幾つも見た。
台風や大雨のとき、地盤の緩い湿地では、大木に育つほど倒れやすくなるのだと言う。
それほど離れていないこの地も、条件はあまり変わらないのかもしれない。
「チェコ、木ごと焼いてしまえ!」
パトスは指示するが、チェコは、
「んー、でもさぁパトス。
あの大きな癇癪玉、ちょっと気にならない?
きっとカードで持ってると思うんだよね…」
チェコは、いつの間にか、軍事カードの強奪を目論んでいた。
「、、馬鹿ね、そんな事言っていると、怪我じゃ済まないわよ、、!」
ちさも叱るが、チェコはノリノリで、
「山猿、召喚!」
疾走しながら、通りすがりの木に猿をしがみつかせて、チェコが走り去ってから、親木まで枝を伝って進ませた。
どぅん、とチェコの前を走らせていた狼も爆発する。
「チェコ!」
パトスが怒鳴る中、チェコは、すこしづつ木に近づきながら、二ターン分のアースを使い、ハンザキ一号を召喚していた。




