策
まずはキャサリーンとタフタの救出が一番重要だ。
と、チェコは考えるが、一方ではピンキーたちに囲まれるのは嫌だな、という思いも心をよぎった。
さっきは、まんまと敵の罠に嵌まってしまった。
ピンキーたちは、プルートゥのような圧倒的な力は無いものの、策を使ってくる、とチェコは思い知っていた。
下手に策にはまると、酷いことになる。
ここで、チェコが倒れたなら、後から来るエルフを待つのは、きっと手遅れになる。
だけど、どのみち兵士と戦えばピンキーたちも気づくよな、と思い、チェコは足を止め、ちさたちに相談した。
「、、何か策を打てるといいわね、、」
と、ちさ。
「敵の位置が解れば、策も立てやすいのである」
とエクメル。
「木に登ろうかな?」
チェコは、目の前の大木を見つめる。
「召喚獣を登らせて、パトスに話を聞かせるのである」
エクメルは教えた。
なるほど、精獣ならば、獣と話が出来る。
「召喚、森のリス」
チェコはリスを呼び出すと、木に登らせた。
リスは軽々と木の幹を走り、枝に乗り、木葉を潜り抜けていく。
そして、しばらくすると、するすると木を降りて来た。
パトスとリスは声もなく言葉を交わす。
前にパトスは、心の声で話すのだ、と言っていた。
「…兵が一一人、先の藪に集まっており、タフタとキャサリーンは兵士に取り囲まれていて、藪を背にして座っている…。
兵は槍と弓で武装している。
その先にピンキーがおり、左腕は道を挟んだ向かいの森の木に寄りかかり、座っている…」
ふーん、とパトスの話を聞き、チェコは
「キャサリーン姉ちゃんの位置は?」
パトスが、
「…俺が正確に判る…」
と教えた。
チェコたちは、ひそひそと作戦を検証し、頷いて歩き出す。
森の下生えの藪を、這うようにゆっくりと進む。
「…右手は気づいていない…。
奴は三人で一番、鈍い…」
とパトス。
ゆっくりと草の中を、音を立てずに進み、やがて藪の前まで来た。
チェコはナイフで、藪の草を、根元から切っていく。
一本、一本、草を切り、藪の中に秘密のトンネルを作るのだ。
音を立てずに根も掘り出す。
チェコが掘った根や草は、パトスやウサギやリスが運んだ。
これはパトスが正確な位置を割り出した故の策だった。
十分ほどで、チェコはキャサリーンの背中、ハナの箱まで穴を堀抜いた。
ハナの箱を、コンコンと小さく叩く。
すると、箱が微かに左右に動いた。
チェコは頷き、無言のまま、スペルを発動させた。
「うわ、見ろよ、蛇だ!」
兵士の一人が叫んだ。
「あれは毒蛇だぜ!」
「うわ、こっちにもいる!」
兵士が浮き足立った。
キャサリーンは、ずりずりと背中から草の中を進み出す。
そこに、森のリスが、兵士たちに木の実を投げる。
「いて!
何かが当たったぞ!」
チェコは、声を忍ばせて笑いながら、スズメバチを召喚した。
「うわぁ、スズメバチだ!」
「何だい!」
ピンキーが大声を出したので、すかさず、油だまり、を使った。
ピンキーは、その場で滑って転び、ゲフッ、と牛蛙が踏んづけられたような声を上げた。
「くそ!
小僧だな、どこだ!」
左腕が、どこか弱々しく叫んだので、左腕の回りに癇癪玉をセットし、右手に底無し沼を使った。
「早く、キャサリーン姉ちゃん、タフタ!
もうすぐエルフも来てくれるよ!」
言いながら、チェコは草を掻き分けた。
キャサリーンの綱をナイフで切り、キャサリーンが出てくると、タフタの縄も切った。




