潜行
「お前は面白い小僧だな。
道化師に向いているかもしれないぞ」
とプーフは笑うが、
「パーフェクトソルジャーが完成したら、世界の終わりだ、とウェンウエイさんも言っていたんだぞ!」
ケケ、とプーフは笑い、
「教えてやろう。
全壊を召喚獣の個体に使えば、完璧に葬る事もできる。
カードすら残らない。
ま、せいぜい頑張るんだな」
個体に全壊を使う…!
全く予測しなかった使い方に、チェコは唖然とした。
が、プーフは陰狼と共に、ふ…、と煙のように、消え去った。
「あれ…、一瞬で?」
「、、チェコ、あれは強い悪魔よ、、手を出してはいけない、、」
ちさが囁いた。
「え、そうなの? 悪魔? あれが?
でも、ちさちゃんも戦ったよね、プーフとは?」
「、、あの時は、あれは本気ではなかった、、
本気なら、、殺されているわ、、
悪魔と戦ってはいけない、、」
「悪魔とオバケって違うものなの?」
「、、全然違う、、天使はカードに入るけど、悪魔は入らない、、
存在そのものが邪悪過ぎるからよ、、
人がコントロール出来るものじゃないの、、
だから悪魔と関わらないで、、
彼と、彼の契約者とは、、」
「ふーん、ちさちゃん、契約者まで判るんだ?」
「、、あたしなら判る、でも人間には、相当に魔力が高くても、それが判らない、、
だから危ういわ、、」
つい話し込んだが、
「ヤバい、早くキャサリーン姉ちゃんたちを助けないと!」
チェコは叫んで、走り出した。
「、、チェコ、道は判ってるの、、」
「ああ、パトスが印を付けているからね!」
パトスは、チェコが右手に首を吊るされた時点で、草に隠れ、二人を追っていた。
道々の草の頭を噛んで折っているので、チェコにはすぐ判る。
木々の間を数分走り抜けると、
「…チェコ…」
パトスが走ってきた。
「キャサリーン姉ちゃんは?」
チェコは声を殺して、パトスに問う。
「…その草の向こうに、男たち、ピンキーたち、いる…。
キャサリーンは、縄で縛られている…」
ほぼ百メートルほど先に、キャサリーンはいる様子だ。
「何人くらいいるの?」
「…多分兵だけで十人はいる…、その他にピンキーたちだ…」
敵に気づかれずにアースを使って予め召喚獣を出しておけば、ある程度の奇襲にはなりうるが、召喚獣などは、どうしても気配を出しやすい。
だが、パトスの言う男たち、の中に、もし一人でもマットスタッフの技術者がいて、この場でカードを作られれば、もはや後からでは手の打ちようがなかった。
「よし、じゃあ、最初はウサギたちだ。
ウサギは決して気配を出したりしないから…」
チェコは二アースで二匹のウサギを出し、また属性分解により、エクメルの黒からパトスの青を引き、緑を得てもう一匹のウサギを得た。
「これを使えば、全てのアースは出せるのである」
とエクメルが教える。
「そーか、どおりでタッカー兄ちゃんも緑のカード、使ってたもんね」
チェコは頷き、次のターンで多産の女王を召喚し、また大地のアースを出した。
「パトス、敵に動きは無いよね?」
「…無い。
何かを待っているのかもしれない…」
どうやら今がチャンスのようだった。
チェコはエルミターレの岩石を出し、多産の女王はウサギ二匹を産んだ。
またエルミターレの岩石で大地のアースを緑にし、ウサギを一匹召喚する。
チェコは息を詰めながらターンが再開するのを待ち、狼を二匹召喚し、またウサギ六匹をタップして狼を三匹出した。
多産の女王は再びウサギ二匹を産む。
そしてチェコたちは、召喚獣と共に、そろそろと、敵集団に近づいていく。
音を立てないよう、ゆっくり木の隙間から見ると、兵士たちは鉄兜や甲冑をつけ、弓や槍を持っているようだ。
キャサリーンやタフタは兵に取り囲まれていて見えない。
ピンキーたちは、兵から少し離れて、回りに気を配っているようだ。
チェコたちは、まず右手の真横を通り過ぎないと、キャサリーンたちの側までは行けない。
チェコと右手の間にあるのは、数本の木と、下生えの草だけだった。
チェコたちは、足音を忍ばせて、ゆっくりと進んだ。
パトスとちさが、右手の動きを警戒していた。




