陰狼
「、、チェコ、、チェコ、、」
ちさの声が聞こえた。
「あ、ちさちゃん、俺、死んだのかな…?」
チェコは木の枝からぶら下がったロープで、首を吊るされている。
「、、大丈夫よ、、あたしがロープを押さえているから、、」
ちさは瞬間、チェコの首を守ってくれたらしい。
とはいえ、いつまでも持たない上、早くピンキーたちを追わなくては、パーフェクトソルジャーが完成してしまう。
しかも、チェコはさっき飛行を使ってしまったため、縄を抜けられなかった。
跳躍のスペルは持っているが、足がつかなくては、ジャンプは出来ない。
「ロープ…、切るか…」
腰の短剣に手を伸ばした時、森の中に巨大な獣が現れた。
「ぬ…!」
チェコは呻く。
それは陰狼だった。
「ハハ…、小僧か…!」
陰狼の肩に、殺人ピエロ、プーフが乗っていた。
「これは笑えるな!」
プーフは、本当に笑っている様子だった。
「煩い、殺すなら、早く殺せよ!」
チェコは剣を抜き、プーカに向けて叫んだ。
チェコが喋ったので、プーフは、ほぅ…、と驚き、
「その小さな魔物が、お前を守っているのか?
お前、魔物と契約でもしたのか?」
「俺とちさちゃんは友達だから、守ってくれてるだけだ!」
プーフの、ビロードのような金髪に、白い肌、頬に青く大きな涙を描いた顔が、異様に歪む。
「その魔物と友達だと…」
プーフを、どうやら怒らせたらしい、とチェコは察した。
が、どうせ、りぃんと散々に戦って魔方陣に封印したプーカなので、今さら懐柔など出来るはずも無かった。
プーフは、ギラつく目でチェコを睨んでいたが、不意に…。
陰狼が、チェコのロープを掴み、ブチと千切って、チェコを地面に置いた。
「な…、何故助けた!」
チェコは喚く。
「別に、僕がお前と戦ったのは、ウェンウェイの連れだったからだ。
僕は子供は殺さないし、死ぬところなど見たくもない。
それだけだ」
プーフはさらり、と語るが。
「あんた、さっき笑ったじゃないか!」
「そりゃ笑うさ。
ヤンチャ小僧が、こんな所で果実みたいにぶら下がっていれば、な。
誰も通らぬハラカイの森の中だぞ、ここは。
人は、不意にあり得ない物を見せられるとな、ギャップで笑ってしまうものなのさ」
プーカは、今も薄く笑いを浮かべていた。
チェコは一瞬考えて、
「あんた、マッドスタッフって知っているか?」
「なんだそりゃ…」
「頭のおかしいカード開発会社だ。
それが軍事用召喚獣を作った。
パーフェクトソルジャーっていう、カードにして、何処へでも持ち運べる兵士なんだ。何十何百とその場で出せて、殺してもカードに戻るだけ、っていう最悪の兵士なんだ。
今、俺たちはそれを止めようとしている」
無表情に話を聞いていたプーフは、しかし、
「知らんな!」
プーフは、今度こそ怒ったようだ。
「僕はユリプス候の命でウェンウェイを殺しに来た。
それ以上でも以下でも無い。
今はただ、お前が子供だから憐れんで助けただけで、元々、お前のような庶民とは僕は立場が誓うんだ。
勘違いをするな!」
チェコとプーフは睨み合った。
「全壊、ってカードか…」
チェコが呟いた。
「貴様…、何が言いたい?」
プーフはチェコを睨みつけた。
チェコも視線を受け止めて。
「あのカードの、何が秘密なんだ?」
ブッ、と吹き出し、プーフはギャハハと爆笑した。
「それを知らないから、お前は生きているんだよ!」




