罠
崖の上は密林状態だった。
チェコは、飛行して大岩の真上に向かった。
そこには、まだ大木に巻き付けられたロープがあったが、右手はいなかった。
歩く場所もない木と草の密林だが、ピンキーたちは、もう近くにはいない様子だ。
「パトス、何か判らない?」
「…奴らの臭いを辿る…」
パトスはクンクンと嗅い始める。
後について、チェコは密林を歩いた。
「、、チェコ、接合で合体した方が早くないかしら、、」
ちさは言うが、チェコは、うーん、と考えて、
「一枚しかないカードだからね、ちさちゃん。
戦いが長引くとスペルが解けちゃうかもしれないし、使いどころはよく考えないと…。
せめて敵の居所が判ればな」
「…たぶん、ハナをマッドスタッフに渡すため、合流場所に急いでいるはず…」
「んー、道も判らないからな」
タフタも拐われたのは痛かった。
チェコは、自分が今、何処にいるのかも判らないのだ。
「ヒヨウなら何か判るかな?」
パトスは、耳を立てた。
「…そう、チェコ、エクメルで通話出来る…!」
チェコは首の革紐を引っ張ってエクメルを取り出し、
「ヒヨウ、ヒヨウ。
聞こえる?」
「発信しているのである。
向こうが気がつけば通話は可能である」
偉そうにエクメルは告げた。
と、不意にエクメルが震えた。
「チェコか、今、何処にいる!」
チェコは、杣人の村から干からびた池を通ってまろびとの村に行く途中の崖で、ピンキーに襲われた事、飛行で垳を登って追跡している事などを話した。
「そこはハラカイの森と言って、ハラカイ、分かりやすく言うと漆の木が多い場所だ。
そこを登った先に道があるから、たぶんピンキーとマッドスタッフは、その辺で合流するだろう。
今からエルフも向かわせるが、残念ながら間に合わないだろう。
なんとか奴らを見つけて、合流を阻止するんだ。
チェコ、お前にしか出来ない!」
「判った」
チェコは言い、
「もー、接合しちゃおうかな!」
ど言うが。
「駄目だな。
お前はここで死ぬからな」
と、木の影から左腕が出てきた。
「…くそ、体に木の臭いをつけてたな…」
パトスの鼻を欺いたらしい。
左腕は、身体中包帯だらけだったが、スラリ、と片刃の長剣を抜いた。
チェコは雷を用意しながら、
「大地のアース!」
と唱える。
ポン、とカードが浮き上がる。
ケケケ、と左腕は笑い、
「そーゆうのは、森の中じゃあ、あまり上手くないぜ、小僧。
漆が燃えたら、お前、死ぬぜ…」
エクメルが、
「漆の燃えた煙は有毒なのである。
火気厳禁である」
と、重々しく告げた。
左腕は、チェコの回りを、横に回っていく。
チェコは額に汗をにじませて、
「爪の罠!」
と防御を固めた。
左腕に正面で対そうと、チェコも回るが、足元は固い灌木の藪で、服に小さな棘が、いちいち引っ掛かる。
そして、待ち構えていた左腕は、ちょうど良い道を作っているらしく、スムーズにチェコの回りを歩いていく。
「癇癪玉!」
と、またチェコは、攻められたら発動するスペルを張った。
そして、
「森の狼!」
と召喚獣を出した。
「へっへっ、狼か、なかなか強い奴も持ってんじゃねーか」
どうも左腕は、チェコの回りをぐるぐる回り続け、攻めてこない。
チェコは業を煮やし、
「狼、攻撃!」
と攻めに持ち込んだ。
瞬間!
チェコは首を、上から捕まれた。
右手が、ロープで木の枝から釣り下がって飛び降りたのだ。
首を絞められ、一瞬でチェコは気絶した。
「ケケ。
餓鬼にしちゃあ手強かったが、罠に嵌めりゃあイチコロだね!」
右手が笑い、チェコの首にロープを巻きつけ、一瞬で吊し上げた。
ぶらん、とチェコの死体が無残に揺らめく中、左腕が大笑して、
「早く行くぜ…」
と右手を急かし、二人は森に消えていった。




