スペルランカー
「うーん、こりゃ塩杉の木だなぁ」
チェコは、太い枝によじ登ると、木の葉を齧った。
塩杉は名の通り、その葉に塩を蓄えることで、海岸沿いなどの植物の育たない場所でもよく育つ。
昔、海から離れたこの辺りまで、大きな津波が押し寄せた。
人は皆逃げてしまったが、エルフが住み着き、古井戸の森を塩杉の木で作り上げたのだという。
遠い昔話だが、この辺りには確かに塩杉の木が多く、葉を齧ると塩を感じる。
「チクチクして痛いわ…」
全身包帯のミカがボヤいた。
「我慢して、ミカさん。
今は、この木の出来るだけ上まで登って、パトスたちと合流できないか、調べないと…」
「合流できないとどうなるのよ?」
「そしたら下に降りるしかないけど…。
それだと今夜は野宿だよ」
え~、とミカは叫んだ。
「野宿なんてしたことないわ!」
「え、そうなの?
若いけどベテランスペルランカーなんじゃないの?」
「二年ぐらいスペルランカーやってるけど…。
あたし、必ず夜はお宿に泊まってたし…」
「へー、俺、リコの村から出たことないから、お宿って、どんなだか全然分からないけど、凄いなぁ…」
「別に、つまらないよ、宿なんて…。
自分の家が一番だよ…」
「でも、朝ご飯が豪華なんでしょ?」
「…ミカは、スイーツが有名な宿に、よく泊まってるよ…。
パウリー帝国のクリステーヌの、バニラアイスを乗せた、とろけるパンケーキは、凄っごい美味しかったよ!」
「わぁー、いいなぁ、パウリー、行ってみたいなぁ…」
ミカはチラッとチェコを見、
「まぁ、あたしに勝った君なら、そのうち行けるんじゃない」
「うん、俺、きっと強いスペルランカーになるんだ!」
ハハッ、と笑い。
「でも今は、この木に登らないとね」




