襲撃
「もう、そういう事を言ってる場合じゃないわ。
あのビジョンを見る限り、あと三十分もしないうちに、敵は攻めてくるわよ」
タフタは、判った、と言い、湖畔の漁師小屋へ向かった。
「おぅい、マジェル爺さんよ」
昨日と同じように声をかけ、
蛭谷から兵士が間もなく攻め込んでくる、と話した。
「それは確かな事なのか?」
「てんまん様のお告げだ。
俺たち七人が同時に見たことだ、まず間違いはない」
マジェルはしばらく黙孝し、
「リリ、皆を呼びなさい」
奥にいた少女が走った。
「皆、家から剣や弓を持ってくるんだ!
村を閉めるぞ!」
村を閉める、というのがチェコには判らなかった。
昨日、チェコたちは、宿の屋根から外に直接出ている。
特に壁のようなものは無かった気がする。
やがて村の鐘がカンカンと鳴らされ、船は戻ってきた。
女と老人は、船を迎えることなく、森に向かう。
と、森の枯葉を退かすと、木の板が地面に伏せられていた。
板というか、太い角材を鉄の、たが、でまとめた頑丈なもので、長さは三メートル近くある。
板に鉤を引っ掻けて引くと、それはしっかりした塀になり、そして塀の下には大きな空堀が掘られていた。
村の周囲に板の塀が立つと、湖沿いの堀の石を引き抜く。
空堀に湖水が流れ込んだ。
若者たちが鎧を着、武装して来る頃には、村の周りは三メートルの塀が立ち、深い水堀が周囲を固めていた。
チェコたちは、村人と共に、家々の屋根に登った。
そこからは森や湖がよく見渡せた。
そのように計算して村が出来ていたのが、初めてチェコにも判った。
「おい…」
老人が、蛭谷方面を指差した。
松明が、森に光を放っていた。
それが、二十…、三十…、群がるように漁村に向かっていた。
「よし、皆、弓を構えろ!」
若者は大弓を引き、子供や女は半弓やボーガンを引いた。
他に、各自、剣や槍を持っている。
更に、投石用の石も、何籠も用意されていた。
蛭谷からの松明は、徐々に近づいてくる。
「…チェコ、裏手からも来るぞ…」
パトスが教えた。
「よし、キャサリーン姉ちゃん、行ってくるよ!」
チェコは走りながらウサギ三匹を召喚していた。
屋根を走って裏手に回ると、村を見下ろす、砂漠に続く高台に、火が見えた。
ヒイラギの繁る丘に、幾つかの松明があり、どうやら火矢を放とう、としているらしかった。




