崖
チェコは崩れる岩の上を走り跳び、ミカを抱えた。
が、チェコの乗った足場が、ぐらり、と傾いた。
うわぁ!
チェコとミカは、岩場を落ちて行った。
「チェコ!」
パトスが叫ぶ。
チェコは、落下しながら、腰のロープを投げていた。
岩場の直下は崖になっており、ほとんど摘まるところも無かったが。
かなり大きい枝ぶりの木がチェコの目に飛び込んできたのだ。
ロープは、うまく木の枝に引っかかった。
チェコとミカは、ぶらん、と空中を大きく揺れた。
「…たのよ…」
「えっ、何?」
「どうして、あたしなんか助けたのよ」
チェコはにっこり笑った。
「だって…。
女の子だし、強いスペルランカーだし、さ…。
目が、とっても綺麗だったし…、ね」
「綺麗…?」
「うん…。
ミカさんは綺麗だ」
ミカは目を逸らした。
「嘘…。
皆、ミカが強いから、そう言う嘘を言うのよ。
みんな、影では、あの包帯女、マジ有り得ない、とか言ってるのよ!」
アハハ。
とチェコは笑う。
「俺、親も、兄弟もいないから、ミカさんの目、好きだよ。
懐かしい目だ。
ほかは…、見ていないから判らないけど。
でも、俺を育ててくれているダリア爺さんにはお金がないからボロい服ばっかり着ているし、村でもそれで、馬鹿にされるけどさぁ…。
そういう人は、人の外側のことしか見えてなくって、きっと内側の事が判らない人なんだな、って思うんだ。
そういう人は、外側だけの友達を作ってさ、外側だけの家族を作って、自分の子供も外側の事だけしか考えられないと思うんだよ。
それも、凄く寒い生き方だよね。
俺は、お金は無くても、ダリア爺さんの家が好きさ」
「…じゃないもん…」
「うん? 何?」
「服はボロくないもん…。
コクライノのオーダーメードだもん…」
「うん。
ミカさんは、目も、服も、とっても綺麗だ。
ところで…。
今のうちに、ロープを登って木に移るよ、掴まって」
チェコは、ブーツでロープを挟んで、登り始めた。




