危機
「真夜中だが、村長はおそらく起きてくれるだろう」
ヒヨウは、石に座って魔石を出した。
ヒヨウの魔石は、グリーンの深い色をした瑪瑙によく似た石だった。
「ヒヨウです。
長老様、夜分失礼致します」
長老は、ヒヨウの言うように、既に起きていたような声で、
「ヒヨウか。
山はどうだね」
ヒヨウは、ピンキーの事、蛭谷の兵士の事、パーフェクトソルジャーの事を語った。
「なるほど、確かにそんな物が世に出てしまったら、もう、この世の中は破滅だろう。
判ったヒヨウ。
何人かエルフを派遣しよう。
我々で打てる手は打つ。
だがヒヨウ。
判っているだろうが、一番重要なのは、お前と仲間が安全である事だ。
もし危険なら、いつでも通信しておくれ」
ハァ、とチェコも大きく息を吐いた。
外に仲間がいる、と思うと、それだけで気が軽くなる。
「エルフの大人が何人か来てくれれば、状況は随分変わるな」
タフタの声にも、安心感が溢れた。
「あまり気を緩めるな。
大人が来るのも、今日という訳にはいかないし、俺たちのところに来るかどうかは判らない。
長老が必要と思えば、戦争の調停を優先させるかもしれないし、蛭谷に探りを入れる必要もあるだろう。
第一、エルフは、伝説の英雄ではない。
全て上手く行くなどと楽観はしないことだ。
俺たちは予定通り、まろびとの村へ向かう。
もし助けが来るなら、たぶんその辺になるはずだ。
用心して進むぞ!」
チェコたちは、再び歩き始めた。
「なんて名前だっけ、神様は。
神様、パーフェクトソルジャーをやっつけてくれないのかな?」
チェコが疑問を口にする。
「やっつけてどうする?
相手はカードに戻るだけだぞ」
あ、そうか…、とチェコ。
タフタも唸った。
「こいつは戦争の概念が、全く変わっちまうな。
戦っても戦っても、敵は減りもしないんじゃなぁ」
「こんなのが野に放たれたら、世界の終わりよ。
なんとか、この山で口止めるのよ」
キャサリーンも厳しい声を上げた。
「たぶん、エルフの大人たちが動いてくれると思う。
いや、既に動いているだろう。
俺たちは妖精を守り、自分の身を守るのが大切だ」
ヒヨウは皆を励ました。
遠くで、不思議な鳴き声が聞こえた。
「動物?」
耳聡くチェコが気づいた。
「…違う、たぶん笛の音…」
パトスが教えた。
確かに、それは大きくうねり、小さくうねり、複雑な音の波を作り上げていく。
「人?
エルフ?」
「馬鹿な、そんなに早い訳がないぞ!」
逆にヒヨウは戸惑った。
と。
闇の中に、巨大な蛇が、じっ、とチェコたちを見ているのが判った。




