山道
パーフェクトソルジャーは凄い速さで尾根を登って来る。
チェコたちも尾根にいるので、その有り様ははっきりと見えた。
その奇怪な歪さと速さは、何か生理的な嫌悪感を、見るものに与えるようだ。
「こっちだ!」
ヒヨウは、皆を尾根の横の森の中に導いた。
パーフェクトソルジャーの恐ろしさにおぞけを感じたチェコたちは、飛び込むように、濃密に繁った木の中に入った。
チェコたちが潜り込んだのは、どうやら下生えの灌木らしかった。
カサカサカサカサ…。
カチカチに枯れた木の葉が地面に落ちるような乾いた微かな音がする。
巨大な体に不似合いな足音が、逆に気味の悪さを増長させる。
カサカサカサカサ…。
何か、耳を塞いでも、その軽い音は、何処からか鼓膜を揺らすようだった。
それが…。
チェコたちの前を、通り過ぎた。
カサカサカサカサ…。
足音が、遠ざかっていく。
「行っちゃった?」
チェコは、逆に驚いていた。
「…行った…」
パトスが呟く。
「現在のパーフェクトソルジャーは、頭が悪い。
だから、この手の事にも引っ掛かる…」
ヒヨウも囁く。
「とはいえ、どうするよ。
エルフの足に追い付いてくる化け物だぜ?
このまま七曲り尾根には行けねーんじゃないか?」
タフタが呻く。
確かに、山道と言うのは一本道のようなものだ。
同じ道を進んで行けば、どこかでまた出くわしてしまう可能性は高かった。
「そうだな…」
ヒヨウは一瞬考え、
「ここはエルフ道に出て、一旦針山まで戻って、砂漠の奥、牙谷から隠れ谷のまろびとの村に向かおう。
たぶん、ピンキーやマッドスタッフ兵たちは、パーフェクトソルジャーを追いかけるだろうから、山の中をすれ違えるはすだ」
「え、また、あの黒姫のところへ…?」
あの巨大で真っ黒いオバケの姿を思い出す。
「残念だが、山には、そんなに多くの道はない。
黒姫が針山に居続けるのは、そこが山の主要ルートだからだ。
あすこを通らなければ、牙谷へは行けない」
「だがエルフ道なんて、何処にあるんだ?
ここから針山って言うと、ずいぶん標高が違うが?」
タフタが聞く。
確かに、針山の辺りには殆ど木が生えていなかった。
かなりの高所のはずだ。
「この森を下って行けば、二、三十分でエルフ道に出るんだ。
そこからは登り道だが、道自体はさほど険しくはない。
なだらかな登り、と言っていいだろう。
問題は…」
ヒヨウは、森の周囲を見渡した。
相変わらず、多数のフクロウが鳴き声を上げていた。
「てんまん様の怒りがどのように現れるか、と言うことだ。
長居していても、ろくなことは無いだろう。
こうなったら、早くエルフ道まで降りてしまった方が安全だと思う」
誰にも、異存などある訳もなかった。




