臭い
「え、守護霊に去られるとどうなるの?」
驚いて、チェコは聞く。
「まぁ、祓い師としては役に立たなくなるわね。
払う当人が一番先に呪われちゃあ、もう何も出来ないもの」
「ま、俺たち一般人には関わりねーさ」
ハハハ、とタフタは笑った。
「でもなんか、先祖の霊って、会ってみたいな!」
チェコは、ダリア以外、全く身寄りの無い身として生きてきたので、自分のルーツ、のようなものには特段、心を惹き付けられた。
「エルフの儀式では、まず死人の谷に行く。
これは鬼の古井戸にもっとも近い、人間が立ち入れる限界の場所だ。
無論、本来、立ち入って良い場所では無いので、そこでは一切、水を飲んだり物を口に入れてはならない。何故なら、そこにある水も木も、皆冥府のものだからだ。
そこでスオウ蝶の蛹を探す。
一昼夜かかって蛹を探し、なんとか村に帰って、聖地ウリンの丘で、蛹の孵るのを待ちながら瞑想をする。
何も飲まず、食べないのでフラフラになりながら、一心に蛹を見守るのだ。
やがて蛹は少しづつ裂け、中から緑色の蝶が現れる。
その一瞬、俺の心は肉体を離れ、遠いエルフの勇者の住むカイナ・クムの地に辿り着き、先祖に出会った。
輝かしい体験だった」
「俺も会えるかな?」
チェコは、ワクワクと聞くが、ミカが突っ込む。
「馬鹿ね。
魂はカイナ・クムに行った、って言ったでしょ。
あんたがエルフの冥府に行ったって仕方ないでしょ。
無理なことは、無理なのよ。
諦めなさい!」
七曲り尾根はゆっくり右に曲がりながら登っていくようだった。
森は未だに静まり反ったままだ。
と。
ホー…。
静寂を破るように、フクロウの声が響いた。
「…神様?」
タッカーが、焦って囁く。
ホー…。
ホー…。
森のあちこちで、急にフクロウが鳴き出した。
「…臭いが、する!」
パトスが、叫ぶように言った。
「とても変な臭い…。
獣と人間の混ざったような、気味の悪い臭いだ!」
パトスの言葉に、ヒヨウは唸った。
「たぶんパーフェクトソルジャーだ!
どうやらマッドスタッフの奴ら、パーフェクトソルジャーを、また野放しにしてしまったらしい。
身体能力は凄まじいから、きっと俺たちの臭いを辿って来たんだろう」
言葉を切って、無数のフクロウの鳴く森を見渡した。
「そして…、明らかに神は、あの獣を嫌がっている!」




