地の底
「ま、ここで考え込んでいても仕方がない。
とにかく七曲り尾根に登って行こう」
ヒヨウが言った。
「え、でも、まだ何かあるかもよ。
いつもとは違うって…」
チェコは残念がるが、
「チェコ君。
敵がいるのよ」
とキャサリーンに言われると、諦めた。
キャサリーンに嫌われて学校に行けなくなるのは、なんとしても避けなければならない。
だがチェコは、
「あの足跡のところを掘ったら、なにか出てくるかも!」
「馬鹿ね。
白い道の外じゃない。
今、そんなリスクは冒せないわよ」
ミカの言葉に、ヒヨウも、その通りだ、と話した。
「そんな事は、戦争も、ピンキーに追われてもいない昼間にやればいい。
今は、先を急ぐぞ!」
チェコも渋々ヒヨウに従い、山道を登った。
ほんの数分登ったところで、タッカーは道に蹲り、一心にランプの火に塩を注いでいた。
「何をしてるの、タッカー」
ミカが呆れて言うと、うわ、と飛び上がり、
「なんだミカちゃんか…。
今、向こうの草の辺りでガサッて音がして、もしかして片牙だったらヤバい、って思ったんだ」
タッカーは言うが、チェコは、
「片牙の臭いはしないよ」
ヒヨウも、
「それをするならタッカー。
エルフ酒を頭からかぶって、裸になることだ。
服のままでは人間の臭いがなかなか消えないからな」
と教えた。
パトスは、クンクンと周囲をにおい。
「…猪の臭いがする…」
「おー、惜しかったな。
捕まえりゃあシシ鍋に出来たのに」
「夜に狩りは無理だ。
下手に血の臭い等をさせると、色々嫌なものが集まってくる」
ヒヨウが生真面目に返すと、タフタはアハハと笑い。
「冗談だよ。
ろくに槍も弓もなくて、狩りなんてできないさ」
ん、とチェコは考え、
「でも、スペルがあるし、目の前の猪一匹ぐらいなら…」
と考え始めるが、
「先を急ぐぞ。
タッカーも用意をしろ。
ともかく七曲り尾根の麓までは進んでしまおう」
ヒヨウは皆を急がせる。
タッカーは、塩をリュックにしまって立ち上がった。
「タッカー兄ちゃんも幽霊、見れば良かったのに。
面白かったよ」
チェコは言うが、タッカーは。
「見たよ…」
ぼそっと答えた。
「え、そうなの?」
「僕は、ちょうどチェコの頭越しに、地面を見ていたんだ…。
そうしたら、幽霊は地の底から、ゆっくりと生えるように泥を盛り上げながら出てきたんだ…。
本当に恐ろしかったよ…」
と、タッカーは身を震わせた。




