沢蟹
「寄生虫で強くなるの?」
チェコは驚いた。
「素人さんは驚くだろうけど、まぁ虫だって生きてる訳よ。
で、寄生主であるあたしが死んだら、寄生虫だって死ぬの。
だから上手にコントロールすれば、お祓いとか、あとアースなんかも提供するよう仕向ける事も出来るのよ、実は。
プルートゥも寄生虫を飼っていたわよ」
「うわぁ、そんな事までするんだ!」
チェコでさえ、少し引いた。
「ま、素人は死ぬからお勧めはしないわ。
これは相応の専門知識もあって、子供の頃から、そう育てられた人間専用の方法よ」
と、話しているうちに、干し飯は、すっかり食べ頃になった。
寄生虫の話の直後に食事をするのは微妙だったが、匂いは旨い。
「これは干したものと味噌しか入っていないから、平気だぞ」
ヒヨウも、空気を察して、言った。
チェコもパトスも、すぐ食べ始めた。
「昼間なら沢蟹ぐらいはいくらも救えるんだがな」
タフタは残念がる。
「俺、あれちょっと苦手」
と、珍しいことをチェコが言った。
「へー、お前の村じゃ食わないのか?」
タフタも疑問に思ったらしい。
「俺は、飼おうと思ったのに、ダリア爺さんが、素揚げにして食べちゃったんだよ!」
チェコは怒った。
「ダリア、ケチ。
飼うと餌がかかる、と言う…」
パトスも怒っていた。
ケケ、とタフタは笑い、
「カリカリに揚げたのは旨いんだよな」
生唾を飲んだ。
「え、この山の中で揚げ物をするの?」
タッカーは驚いて聞き返した。
「いや、山でなら直接焼いて食べる。
まー、足とかは捨てるしかないけどな」
とヒヨウ。
「砕いて、よく擦り下ろして出汁にしても美味しいのよ」
ミカも話した。
「たぶん沢蟹じゃないけど…」
とキャサリーン。
「もっと大きな蟹を、お酒に浸けたやつ、美味しかったわ」
ああ、とウェンウェイ。
「シーニア地方の名物料理で、生きた蟹を酒に浸けるかな。
身がトトロトロになったところを食べると絶品かな」
ふーん、とぼんやりチェコはあいづちをうちつつ、食べられてしまった蟹に未練を感じていた。
上手に飼うと冬籠もりをして、大きく育つはずなのだ。
やがてハサミに毛が生えてくるのだという。
学校に行くようになったら、蟹を飼えるかな…。
考えながら、チェコは干し飯雑炊を啜った。




