幽霊
「幽霊って、目を瞑ったら見なくなるの?」
全員、首を傾げた。
「俺は霊は見ないから判らないな」
ヒヨウはどうやら、それで通すつもりのようだ。
「あれって、見たくて見るもんじゃねーしな。どういう理屈で見るもんなのかは判らねーな」
タフタも困る。
「色々条件があるものなのよ。
本来は全く関係の無い人に出たりはしないはずなんだけど、特に酷い死に方をした人なんかは、悲鳴を上げるように人に知らせたがるものなのよね。
それでも、見る、と見ない、の違いは、ヒヨウのように体質とかタイミング、としか言えないわね。
必ず見る人なら、儀式で見ないように出来るんだけど、見るかどうか判らない人は、さすがに何も出来ないわね。
ても一つ言えるのは、あたしなら、とり憑かれたとしても幽霊ぐらいなら祓えるから安心して、って事ぐらいね」
そういえばミカは、もっと強力な死霊でさえ祓える祓い師だった。
「良かったなタッカー、祓えるってさ」
タフタは言うが、タッカーは、
「そんなに実害は無いのは、聞いたし、判ってるよ。
でも霊のようなものを見てしまったら、教会の言う地獄とか、そういうものも信じざるを得ないし、そう考えたら怖くて夜も眠れない気がするんだよ…」
見ること自体が大変な事なのだ、とタッカーは言いつのった。
「教会ってそんなに怖い事いうの?」
チェコは教会には行ったことが無い。
ダリアは錬金術師であり科学の徒であるため、神学を迷信と嫌っていたのだ。
チェコがあまりリコ村に馴染めなかったのには、そういう理由もあった。
田舎は、概して迷信深い場所であり、異教徒や無心論者を受け入れない。
「まー、牧師によるんだろうけどなぁ。
ほら、子供には特に、悪いことをすると地獄に落ちて酷い拷問を受けるとか、教育って事で脅かすもんだろう?」
なんだかそれも理不尽な気がして、チェコはタッカーに同情した。
「判ったよ、タッカー兄ちゃん。
それじゃあ、チャップマンの墓に近づいたら、パラライスのスペルでタッカー兄ちゃんを気絶させて、バブルで運ぶよ!」
チェコの提案に、タッカーは俯いたが、
「いや…、大事なカードをそんなところで消費してピンキーに襲われたら僕も困るし…。
なんとか頑張ってみるよ!
必ず見るとは限らないしね」
タッカーは、弱く笑った。
「まー、大抵は出ないから、そこまで心配することはねーよ」
タフタが励ました。
タッカーは、ふらり、と立ち上がり。
「ごめんね、今休んだところなのに。
でも、待っていても怖いだけだから、それなら早く通りたいんだ…」
と、光が灯ったため、なお青ざめてみえる顔で、タッカーは言った。
「んー、平気平気。
俺も、早く行きたいし!」
とチェコ。
「まー、そうだよな。
嫌な事は早く済ませちまいたいよな」
タフタはタッカーの肩を叩いた。
ミカは、ごくり、と水を飲み。
「幽霊ねぇ。
山って本来は、あまり幽霊の出るところじゃないんだけどね。
山の精霊や悪いお化けに吹き飛ばされちゃうもんなんだけど、立地かしらね」
大きなリュックをどっこいせ、と背負い、
「普通の霊なら、そんな心配は要らないのよ、タッカー。
何事も最初は怖いものよ」
とタッカーの尻を叩いた。




