幽霊
「へー、何もしない幽霊なら、見れてラッキーたね!」
チェコは、闇の中でも興奮で瞳を輝かせているのが判るが、反対にタッカーは、魂が抜けかけたように肩を落としていた。
あまりの落ち込みように、ミカでさえ気の毒になったのか、
「タッカー。
片牙と比べたら、数段マシでしょ」
チェコも、
「一度くらい幽霊見たくないの?
みんなに自慢出来るじゃない?」
ノリノリで言った。
「…だってさ、
もちろん、この山を降りたら二度と近づきさえしなければ、片牙や黒姫の事は忘れられるけどさ、幽霊は、街にもいるって話だからさ…。
街でも怯えなきゃならない、って考えたら、もう、僕はどこにいれば安全なんだか判らなくってさぁ…」
すっかり枯れ切っているタッカーに、タフタも、
「おいおい、必ず見るもんじゃ無いんだからよ、タッカー。
俺もよく通っているが、見たのは二度だけだ」
「俺は化け物の類いは見るが、幽霊は見ない。
タッカー、人により、俺のように絶対見ない人間もいるのだ。
お前も、今まで幽霊を見た事が無いのであれば、たぶん、今回も見ないさ」
ヒヨウも、務めて陽気に慰めた。
「そうかな…」
背中を丸め、タッカーは、急に寒くなったように腕を抱えた。
「あ、俺、お札を持ってるよ!」
チェコは、自分のリュックをほじくり、
「ほら、これを持っていれば!」
とよれよれの紙切れをタッカーに渡した。
「…馬鹿チェコ!
それはダリアがくれた道中守り、
幽霊避けじゃない…」
パトスが言うが。
「えー、こーゆうのって、何にでも効くからありがたいんじゃないの?」
「まー、よほど害があるんじゃ無ければ、あまり幽霊避けの札なんて無いわね。
でも、気は心だから、持ってたら」
ミカも慰めた。
ヒヨウも、タッカーを励ますためか、
「よし、もうカンテラを灯しても良いだろう。
光があれば、きっと幽霊も近づかないはずだ」
皆は、早速カンテラに火を灯した。
ヒヨウは腰に小さな木製の箱をベルトに付けている。
中は縄になっていて、先端が燃えている。
ランタンに火を灯すと、そのランタンを皆に回す。
「これは聖なる火だから、きっと幽霊も逃げていくぞ!」
皆の周りに光が灯ると、確かに真っ暗な森にいるよりは、ずいぶん心も明るくなった。
「まあ、水分補給もして、ゆっくり休め。
先に進むのは、心を落ち着かせてからで構わない」
「ロープで繋がってるんだからさぁ。
チャップマンの墓地では目を瞑っていればいいんじゃないの」
とチェコは提案した。




