チャップマンの墓
しばらく山道を歩いたが、うわっ、とタッカーが下草に躓いた。
タッカーの前はウェンウェイで、後ろはタフタなので、怪我をする事は無かったが、
「負傷をしては、逆に遅くなる。
少し休もう」
言って、木の根元に座った。
「だいぶ歩いたかな?」
チェコも腰を下ろすと、少し汗が流れた。
「もうそろそろ沢に出て、そこを過ぎれば尾根の真下の窪地に出る。そこまで来れば、七曲り尾根はすぐそこだ」
「おい、そこって確か、チャップマンの墓なんじゃないか?」
タフタの言葉にヒヨウは頷く。
「そうだ。
幽霊が出ると噂はあるが、俺は見た事はない」
「おー、幽霊!」
チェコは盛り上がるが、タッカーは小さな悲鳴を上げた。
「待ってよ待ってよ。
色々、恐ろしいものは見たけど、幽霊なんて!」
ミカは呆れて、
「片牙もすぐ近くまで来たし、黒姫も見たし、今更、ただの幽霊なんかにビビる?」
チェコも、
「りぃんも、まぁ幽霊に近いけど、友達じゃない?」
「僕はりぃんの姿は見てないし、りぃん君は確かに友達だけど、人の霊魂なんて、怖いに決まってるじゃない!
お化けと幽霊は、全然別だよ。
君たちの方がおかしいよ…」
チェコは首を傾げ、
「そのチャップマンの墓って怖い場所なの?」
少し、ワクワクしながら聞いた。
「チャップマンって言うのは、俺と同じ樵でな。
偏屈者で、常に一人仕事をしていたんだ。
だから、奴に何があったのかは判らない。
五年ほど前、通りかかった薬商人が、木の下で、ぼんやり立ってるチャップマンを見た。
カンカン照りだったのに、何故か傘をさしていたらしい。
で、七曲り尾根を登って山小屋に立ち寄って話したんで、最近、そう言ゃあチャップマンの奴を見てねぇな、って話しになって降りてみると、奥で、自分の斧で体を肩から割られたチャップマンがいた、って訳さ。
それから傘をさしたチャップマンが、度々現れるようになった」
「それって自殺って事?」
チェコは問うが、タフタは。
「斧ってやつは、自分一人で自分を切ることはできない。
ま、下手糞なら、足ぐらいは落とすかもしれんが、それもわざと、というのは無理だ。
木に当たって、跳ねて足にくる訳さ。
誰かにやられたにしちゃあ、チャップマンは自分の斧を握っていて、あんまり固くて外せないほどだった。
それに、何故か幽霊は傘をさしているが、山じゃ傘なんて使わない。
帽子とレインコートが山道の基本だからな。
転げたら大怪我だからな。
まして、雨の日に木を切るなんて、危ないから絶対しないし、ようは全くちぐはぐで、意味が判んねぇーのさ。
ま、ただ立ってるだけで、悪さをする、なんて話しは聞かないな」




