鳴き声
キキキ、キキキ…。
また猿の声が変わった。
「これも声マネキなのかな?」
ヒヨウは考え込んでいる。
「俺も、声マネキを見た事はない。
が、親世代では幾人か出会った人もいる。
それによると、ほとんど動かない生物のようだ。
パトス、本当に動いているのか?」
「…こっちに来る…、凄い大きさだ…」
「動く声マネキなんてものが見られるなら、見たいところだが…。
しかし大人の話の限りでは、声マネキっていうのは、ほとんど大きくても熊ぐらいの大きさらしい」
ヒヨウの言葉に、パトスは、
「…そんなんじゃない。ずっと大きい…!」
と、言葉に焦りを滲ませた。
「あまり大きいとなると、人も喰らうかもしれないな。
残念だが逃げておいた方が良さそうだ…」
言ってヒヨウは、右に道を折れた。
チィ…、チィ…、と、また別のところから声がする。
ヒヨウの足が止まった。
手を上げて皆を制し、声を潜めた。
「赤子とかしだ。
皆、屈むんだ…」
チィ…。
チィ…。
鳥の声にも似た、高い声が近づいてくる。
夜の森に、何か、闇よりも黒いものが、蠢き、近づいてくる。
たくさんの、長い足を持ち、それらが闇の中で、絡まるように複雑に交差して動いているようだ。
その一本一本の足は細くて、まるで骨の無い、ミミズのような足であり、それが無数にうねうねと動く様は、何か人間の生理を不快にくすぐるおぞましさがあった。
その意味不明に長く、不快な無数の足の収まる胴体は、まるで子供用の椅子のように見えた。
赤子が、初めて立って歩くようになり、彼の体に合わせた椅子に座る、そのぐらいの大きさだ。
その上に、まさに赤子ほどの生き物が座っているように見えた。
チィ…。
チィ…。
それは拙い体で身動ぎしながら、盛んに闇の森に、声を発していく。
闇の中、ではあるが…、近づくにつれ、そのミルク臭いにおいや、あどけなげなチィ…、と鳴く声が、むすうのミミズの間から漂って来ていた。




