七曲がり尾根
「僕は、明るい都会でしか生きていけないんだよ」
ハーハーと、息を荒げるタッカーに、
「しばらくは明かりを見られたくない。
またロープで繋いで、闇を進むから我慢してくれ」
ヒヨウは涼やかに語りながら、素早くロープを出すとチェコに放った。
皆、慣れたもので、素早くロープを体に巻き付け、チェコたちは道の無い山の中を、滑るように歩き始めた。
「ちょっと寒くなった?」
ミカが半袖の服を押さえる。
いきなりの出立だったかため、ミカが着ているのは少女らしい紅色のTシャツだった。
「あ、ミカさん。
包帯巻いてないよ」
温泉から上がったままのミカは、愛らしい金髪の少女だった。
「あ、そうね。
それで寒かったのね」
「うんにゃ、百メートル位は、標高も上がってるだろ?」
とタフタ。
山男は、さすがにそうしたことを、肌で感じるものらしかった。
「ああ。
ここは漁村よりは一つ上の、七曲がり尾根に向かうルートだ」
「げ…、七曲がり尾根なのかよ」
タフタが呻く。
「何か、またヤバい場所なのかい?」
タッカーはビクビクしていた。
「昼は別に、普通の道なんだがな…」
タフタは語った。
「夜は、入らずの森なのさ」
「入らずの森って?」
チェコが悪食の魚のように、一瞬で食いついてきた。
「決して夜には入ってはいけない禁足地だ。
それ以上の事は、判んねぇ」
タフタの言葉を引き取ってヒヨウが、
「山には神が宿る場所が、所々にある。
七曲がり尾根もそういう所で、ここには俗に、てんまん様と呼ばれる神の住む森があり、尾根は森の上を通る道になることから、夜に足を踏入れる不心得な人間には、恐ろしい目に会うという場所だ」
ヒヨウは、至って冷静に教えた。
「な…、なんとかなるんだよね?」
タッカーは怯えた。
「てんまん様は神だ。
従って人間を食ったりしない。
また、片牙は決して足を踏み入れない聖地たから、少々恐ろしい目に会っても、我慢するんだな」
ヒヨウは笑って語り、タッカーは頭を抱えた。
チェコは森の周囲を見た。
夜の森なので、殆んどなにも見えないハズなのだが…。
不思議と、木々の様子が判るような気がした。




