森
「おいチェコ!」
タフタが、隣の家の屋根の上で囁く。
チェコが顔を出すと、タフタはロープを放ったので、受け止めた。
「ちょっと待って」
ミカは召喚獣ゴーレムを出した。
ゴーレムにロープを握らせた。
「これでいいわ」
言ってミカは、ロープに跨がると、片足を曲げて足首をロープにかけ、ロープを這って進んだ。
ついでチェコがパトスを背中に乗せて這い、キャサリーンが続いた。
「タッカー兄ちゃん!」
タッカーは、青ざめている。
「どうしたのタッカー。
今まで、もっと高い場所も歩いてきたでしょ?」
ミカが急かす。
確かに、魔女の宴場にしろ、ネルロプァにしろ山羊の道にしろ、遥かに高い場所を歩いてきていた。
「で…、でもロープの渡り方なんて、僕は知らないんだよ…」
タッカーは途方にくれた。
「仕方ないかな」
ウェンウェイは言って、タッカーの胴体を脇に抱えると、窓に足をかけ、ヒョイと跳んだ。
「よし、じゃあ、このまま屋根伝いに山に行っちまおう」
タフタは囁く。
「え、山にはピンキーがいるんじゃないの?」
チェコが聞くと、
「村から出る道は決まってるからな。
そこを見張っているに決まっている。
山に出れば、奴らの裏をかけるのさ」
言って、タフタは屋根を跳んだ。五軒ほどの屋根の上を登り降りしていくと、大きなケヤキの木の枝が屋根の上に被さっていた。
そこからケヤキに移って、木の幹を滑り降りる。
そこは既に、深い森だった。
「こっちだ」
タフタは走る。
森は下生えの草も凄かったが、タフタの選んだ道は、すんなりと走ることが出来た。
やがて森は登りになり、木や岩を避けて右折左折を繰り返し、ふと出ると、そこは砂漠の際だった。
タフタは一旦足を止め、周囲を用心深く探って、よし、と囁き、走った。
一直線に夜の草原を走ると、すぐにそれが判った。
チェコの身長よりも、遥かに高くそびえ立った、蟻塚だった。




