錬金術
「見ろよパトス!
こりゃあ、錬金の道具だぜ!」
「錬金術、ダリアの仕事」
「うん、そうそう、俺の爺さんが錬金術師だから、俺もスペルランカーになれた、ってもんさ。
ちなみに俺は、今、十三で、爺さんに預けられたとき、身に着けていたもの、といえば、この黒い石の嵌ったネックレス一つ、だけなんだ!」
「チェコ? 誰に話している?」
チェコはパトスの言葉を無視して、熱心にスーツケースを調べていた。
「おい、見てみろよパトス。
なんと錫があるぜ!」
「鈴?」
「これだよ、この銀色の塊が錫だ。
…よーし、後は水銀さえあれば…。
おっ、やっぱり水銀もあったぜ!」
「何を喜んでいる、チェコ?」
「いいか。
俺は錬金術師、とまではいかないが、基礎は知っている。
そして錫があり、水銀もあるんだ!
鏡が作れるんだよ!」
「鏡、よくダリアが作っている…」
「そうそう。
この世界の錬金術師は、別に、金を作ったと人に言いふらす詐欺師じゃなくって、金属の加工を行う職人なんだ。
特に、鏡や金箔、銀箔の技術、磁石、羅針盤、または金属細工の自動人形なんかを作ったりするのが得意なのさ」
「誰に喋っている? チェコ?」
「で、パトス」
チェコは相棒に視線を映した。
「鏡を作るには、あそこに落ちている馬車の扉が必要だ。
俺は、これから、あれを取りに行くぜ!」
馬車の扉は、木苺の木から、数メートル、離れたところに落ちていた。
「無理!
絶対、石にされてしまう!」
「だから、パトス
俺が、さっきみたいに、鳥に見えないように、ゆっくりとあそこまで行ってくる。
だけど、引いて帰るのは、お前の言うように不可能だ。
だから…」
チェコは、自分のベルトに吊るしてあったロープをほどき、自分の足首に結んだ。
「頼んだぜ、パトス!」
「チェコ!
せめて、どうして欲しいか、お願いくらい、する!」
だがチェコは、再び、ほとんど動いているとは判らないぐらいのスピードで、木苺の木に潜り込んでいた。