怪魚
「危ない事しないでよねっ!」
ミカは、鳥肌を立てて怒鳴っていた。
「ごめんなさい…」
と謝ったものの、チェコは、かなり手ごたえを感じていた。
もしもパトスと合体できれば、たぶん左腕とも良い勝負が出来るはずだ。
どうしても避けられないリアルバトルだったら、それもアリ、と思う。
「あと、見えない壁って、誰が見えないんだろうね?」
ミカは、まだ怒りに震えていたが、
「召喚獣って書いてあるんだから、普通の召喚獣なんじゃないの?
何か特殊な能力があれば、必ずテキストに書いてあるハズよ」
確かに、スペルカードは売れてこそ開発労力も報われるというものだし、名前で色気を出しただけの、ただの壁なのかもしれない。
「じゃあ、聖水って何?」
ただの壁と聞いて、チェコの興味は即座に別のカードに移っていた。
「ああ。
悪霊とか悪魔みたいな召喚獣には、とてつもない効果を発揮する水よ。
まぁ、ただの水だから普通に飲めるけど、飲むのは水流の方にするのが妥当ね」
キャサリーンは起き上がって魚やパンを食べ始めた。
「あらこの魚、美味しいわね。
ちょっと買おうかしら?」
スープも飲んで、旨い旨いと喜んでいる。
「下の蛭谷でも、ここの干物とかピジョンの肉とか売ってるわよ。
今は行かれないんだけど」
とミカは、残念そうに語った。
「あ、俺、ピジョンが食べたいんだった!」
とチェコが一瞬でカードから興味を移した。
「たぶん夕食には食べられるんじゃないの?
ピジョンはここに住み着いているから、季節に関係なく食べられるはずよ」
少しカモとは違うようだ。
「この村より蛭谷側に群生地があって、前に見に行ったけど、人間を恐れないから可愛いのよ」
「へー、食べられちゃうのに、恐れないんだ?」
「罠を作って、それにかかった奴だけを食用にするのよ。
子供や卵を抱いた雌はそっとしておくのね」
「ふーん、珍しいね?」
野生保護のような概念はチェコには全く無かった。
「ピジョンは、赤魔湖にしかいない鳥なのよ。
それに、あの湖、怪物がいるから、もし餌が無くなったら人間が大変でしょ」
そう言えば、人が消えた、などの噂があったようだ。
「あー、湖の怪魚がいるんだったよね!
見たいなぁ!」
「んー、人が目撃するのは何年かに一度ぐらいだから、まず見ようとして見れるもんじゃないわよ。
ただ、特に夜は、あまり油断しない方が良いでしょうね」
ミカは、自分の爪を気にしながら、教えた。




