蛇が出る
「煩いようだったら停止させるけど、今は酒場全体を範囲にして使ってみましょ」
言ってミカは、スペルを発動させた。
カードは発動時特有の微かな震えを見せているが、全くの無音だ。
「音がするんだよね?」
「そう書いてあったけど、果たしてどんな音がどんな感じで鳴るものなのかしらね。
位置とかも特定できるなら、まーまー使える、って思うけど、あまり騒がしいのは実戦ではこちらの居場所を教えることにもなるから困るんだけど…」
ミカとチェコは音を待ったが、しばらく待っても特段変わりはない。
「ま、いずれ誰かが酒場に入ればわかるでしょ」
ミカは肩を竦めた。
「ねーミカさん。
この、蛇を呼ぶ、ってどういうことだと思う?」
チェコはなにげなく問いかけたのだが、突然ミカは激昂した。
「絶対、使っちゃだめよ!」
「え、ミカさん、このカード知ってるの?」
「し、知らないけど、もし仮に本当に蛇を呼んだりしたらどうするの!
こんな山の中よ。
それはもう、ワラワラ出てくるわ!
駄目よ、絶対ダメ!」
ミカの剣幕に、チェコはふーん、と納得した。
「じゃあ、大地のアースが、どんな感じか確かめるぐらいなら良い?」
はぁ、とミカは溜息をつき、
「まぁ、それぐらいなら、試しに使ってみればいいんじゃない」
と、諦め気味に言った。
チェコは目を輝かせ、
「じゃあ、大地のアース、発動!」
カードが、そのまま宙に浮いた。
チェコの二つのアースの横に並ぶ。
「ん、何だ?」
すぐにアースが出るものと思っていたチェコは、肩透かしを喰らって驚いた。
「タップしろ、って言うんじゃないの?」
ミカも空中を見上げる。
「よし、じゃあタップだ」
空中に赤のアースが現れた。
「おお!
赤のアース!」
チェコは喜ぶが、
「常に赤アース、とかなら、もっと使えるんでしょうけどね」
そのまま地走りも使ってみたいが、住宅内でそんなものを使ったどうなるか、ぐらいはチェコにも判る。
十秒経つと、赤のアースは消えた。
「あれ、カードは残ってる!」
ミカはカードを見て、
「どうもエンチャント的に場に残るみたいね。
でも、いつまで残るのか、ちょっと判らないわね…」
これは、思うより良いガードかもしれない、とチェコの心は弾んだ。
「これ、もう少しあってもいいな…」
チェコは言うが。
「人に使われていないカードは安全とは限らないわよ。
そのくらいにしておいた方が利巧ってもんよ」
と戒めた。




