睨み合い
やがてタフタも風呂から上がってくると、自分が見張るから少し休め、とチェコに言った。
もっとカードを見たかったが、しかし言われてみると少し眠くなったので、既に寝息を立てているパトスの横に、毛布を動かさないよう、潜り込んだ。
パトスの匂いはチェコに安眠効果をもたらす。
少し湿った体毛の匂いを嗅いでいるうちに、すぅ、とチェコは寝入った。
何の夢も見ないでチェコは眠り、寝返りを打った瞬間に、目が覚めた。
既に昼過ぎのようだ。
タフタは、魚の干物やパン、魚のスープを買っていてくれたので、チェコと、スープの壺を開けた途端に食べ物の匂いで目を覚ましたパトスは、それを食べた。
「まだピンキーは何も言ってこないの?」
魚の名は知らないが、脂の乗った切り身を塩とスパイスで干した干した物のようだ。
「ま、連中だって眠らない訳にもいかないだろうからな。
坊主が左腕を相当追い詰めたって事だし、少し時間がかかるんじゃねーか」
タフタも干物を噛み千切った。
「ともかく。
今は下手に動かない方が良い。
この村にいるうちは、奴らも迂闊に手は出せねぇんだ。
なんせ俺たち五人だけじゃなく、村の奴らまで敵にまわしちまうんだからな。
奴らから動かせて、それに合わせて対応すりゃあいいのさ」
ふーん、とチェコは魚を噛みながら生返事をする。
でもヒヨウは、殺されはしなくても、辛い扱いを受けてるんじゃないのかな?
とはいえ、チェコに出来ることは限られていた。
カードを、また出して、見る。
スペルカードは、読んだだけでは判らないことも多い。
発動させてみて、出来ればバトルをして動きを見ないと使い勝手は判らないのだ。
大地のアースを使うタイミングとか、たぶん、どんな地形で何アースが出るのか、とかも知りたかった。
デュエルで鳴子が何に使えるのか、とか、動かしてみたいことはたくさんある。
花クラゲなんか、カードに強さが書いていないのだ。
見えない壁と言うのも、どう見えないのか判らなかった。
召喚獣に見えずに不意打ちできるのか、ただ普通の壁として扱うのか?
「俺、ちょっと外でスペルを発動させてみようかな…」
チェコは言うが、寝ていたミカが、バチっと目を開き、
「駄目よ。
一人になるのを奴ら、待ってるのかもしれないわ。
一人の人質は、持つのが手間だけど、二人でも三人でも見張るのは一緒なのよ。
今は動かない時なのよ、チェコ。
こうしている時間も、戦っている最中なの」
「え、今も戦闘中って事?」
「そうよ。
戦場ではよくある事よ。
お互いに睨み合いで一週間、二週間と続いていく。
でも、大抵そういう戦いの決着は一瞬だわ。
崩れた方が負けるのよ」
全くチェコの知らない世界だった。




