普通の森
「ああ…。
鳥が鳴き、虫が戯れる…。
これが森よねぇ…」
キャサリーンは、大きく息を吸い込んだ。
動物森では自ずと、呼吸も浅くなってしまっていた。
「うんうん、気持ちいいね。
もう少しだから、ちょっと早く歩こうね」
チェコは苦笑気味に言った。
森は爽やかだが登り勾配で、徐々に苔むす岩が土から突き出すような厳しい山道になっていった。
「ちょっとキツくないかしら、この道?」
「コクライノの路地裏巡り、って訳にはいかないよ。
山だもん」
岩だらけの山道を昇ると、巨大な岩が幾つも重なってトンネルを形成した場所に出た。
周囲も、ことごとく岩だらけだ。
と、その一つの岩の上に…。
女の子が立っていた。
鮮やかなブルーのドレスを着て、アンダーに着ているシャツが黒い。
履いているブーツもブルーのスエードで、黒い靴ひもをきつく結んでいた。
大きな、体を覆うような、茶色というより麦色に近い古ぼけた帽子を被っているが…。
そんなことより、なにより…。
少女の体は、左目以外、くまなく白い包帯で覆われていた。
「ハーイ」
少女は、手に持った日傘を傾けて、にこやかに軽い挨拶をした。
「ハーイ!」
チェコもニコッと笑う。
「君、猟師じゃないよね?
こんな場所で何をしているの、そんなところに立っちゃ危ないよ!」
少女は笑った。
「ふふふ…。
貴方たちを、待っていたのよ…」
「チェコ君!
そいつはスペルランカーよ!
カード封じのスペルを使う、本当に嫌らしい敵なのよ!」




