敗戦
湯が適温になったので、そろそろとチェコは湯に入った。
「おー、いい感じだ!」
パトスがバシャンと湯に飛び込み、タッカーも手拭いで前を隠しながら湯に沈んだ。
はぁ、と三人は、それぞれに溜息をつく。
「これからどうなるのかな?」
タッカーは呟いた。
「たぶん、ピンキーが何か言ってくるのを待って、どうするか考えるんでしょ?」
判らないわよ、壁の向こうからミカが言う。
「右手、左腕はやっつけたけど、致命傷は負わせてないわ。
しかもピンキーはピンピンしているのよ。
あの時、出てこなかった、って事は、何か企んでいる可能性があるわ。
ま、チェコに左腕がやられる、って言うのが予想外だったと思うけど。
チェコ、あんた今のところはラッキーボーイよ。
そういう勝ち運って大切なのよ。
雑にならないように注意しなさい」
「雑?」
チェコが聞くと、タッカーが。
「僕は強い!
なんて思っていると、足元をすくわれる、ってことだよ…」
タッカーは、手拭いを頭に、ベチャ、と乗せて呟いた。
「僕も大会の時は、凄く手応えを掴んでいたんだ。
四連勝でベスト八に出たけど、相手は決して強い奴じゃなかった。
負ける方法が思い浮かばない、って思ったよ。
霧のエンチャントも張って、毒蛇も召喚し、何が来ても大丈夫と思っていたんだ。
五枚スペル無効化も持っていて、石化も五枚あった。
敵は一/一みたいな召喚獣を五、六体並べていて、全然怖くなかったし、二つ頭や巨人のエキスも交えて、あと四点の毒ダメージを与えれば勝ち、って状況だったんだ。
ところが、僕はフィニッシュを急いじゃったんだね。
敵の召喚獣が全員で毒蛇をブロックしてきたときに、大地の呪文を使っちゃったんだ…」
ん、とチェコは考え、
「あれだよね。
五アース使う、ブロックした全ての敵を殺すスペル」
「そうなんだ。
これで勝った、と思ったよ。
でも、その瞬間、敵は全ての自分の召喚獣を生贄にして、ゴドブドラゴンを召喚したんだ。
やられた、と思ったけど、もう、どうしょうも無かったんだよ」
「あ、石化を撃つアースも残ってなかったんだ!」
タッカーは湯に、ずぶっと沈んで、
「うん。
その次のターンで、僕は死んだ…」
ブクブクと湯に潜ったタッカーの息が、泡になって浮かんできた。




