病気
タフタは感謝の言葉を述べた上で、
「そう言やぁ、上では蛭谷の連中に矢を射られた、って大騒ぎになってるが、知ってたかね?」
と問うた。
マジェルは無表情に、
「いや、それは知らなんだな。
まぁ、俺たちは漁をするだけさね」
と呟くように言った。
他の老人や女性も何も言わない。
タフタは皆を見回して、
「そうか、じゃあ遠慮なく休ませてもらうぜ」
言って、村へ歩き出した。
チェコも、老人たちにペコリと頭を下げて、後に続く。
「何か、変な感じね」
ミカが言うと、タフタも、
「ま、蛭谷は真下だからな。
何も知らない、って訳はないやな。
だが、あの感じは妙だな。
何だろ?
怖れているのかな?」
「怖れている?」
チェコは首を傾げた。
「蛭谷かピンキーか判らねぇが、何かがこの村にも影響してるんだな。
どうするか。
下手に寝込んで首をかかれても、つまらねぇしな…」
「休みは必要よ。
交代で休みましょ」
とキャサリーンは言う。
チェコたちは、漁村の細く、曲がりくねった路地を歩いて、アシルの酒場に着いた。
「よう」
とタフタが扉を開けると、床をモップ掛けしていた若い女が、
「あらタフタさん、どうしたの、食あたりでもしたの?」
と早朝にやってきたタフタをからかった。
「いや、ちょっと上がドタバタしててな。
こっちに夜のうちに降りて来たんだわ」
気さくに笑うと、女も笑い、
「あー、杣人の村に入れなかったんでしょ?
あの連中、気が短いからねぇ」
「まー、そんなこったと思うがな?」
「蛭谷で、何か病気かなんかがあったらしいよ。
それで、近づくな、って言ったみたいなんだけどさぁ」
「病気かい?」
女は、ふと顔を曇らせて、
「それが、あんまりハッキリ判らないのよ。
泊り客がなんか、って事らしいんだけどね。
魚もいらない、って言われたらしいわ。
何を食べるのかしらねぇ?」
と女は首を傾げた。




