ヒイラギ
ミカの言っている事は筋が通っているように感じた。
こちらの宝に興味がある以上、ピンキーたちはヒヨウやウェンウェイに手は出せないはずだ。
ならば敵のフィールドから出るのは、至極、当たり前の行動だった。
チェコたちは星明りを頼りに、赤魔湖の湖岸へ向かう砂漠を降りて平地に出、湖に向かって斜面を歩いた。
「右側に蟻塚があるの?」
チェコたちは数メートルの木が立ち並ぶ方に歩いていくが、右手側には草や灌木と並んで岩のようなものがポツポツ立っているのが見えた。
数メートルの高さに高々と伸びている奇岩のようなものが、もしかすると蟻塚なのだろうか?
「そうだ。
あれがあるから野鬼は湖より下には降りられないんだな。
その意味では人間の役に立っている訳さ」
タフタが言う。
「え、でも、今、俺たちが歩いている道は?」
普通に湖に向かって降りている、なだらかな坂道だが?
「赤魔湖には漁村があってな。
そいつらが見張っているんだ。
それに、人間には何でもないが、ここに生えているヒイラギは野鬼の嫌いな植物でな。
なんでも葉の棘は鬼には毒になる成分があるそうで、臭いも嫌うからここには近づかんのだ」
ふーん、とチェコはヒイラギを見た。
確かに葉に棘はあるが、別になんということも無いが、鬼には毒だとは。
そう言われてみれば、道は蛇行しながらヒイラギの生け垣を作っているようになっていて、真っ直ぐ通ろうとすれば必ずヒイラギに苦しめられそうだ。
道幅も、人一人が歩くぐらいなので、大きな鬼には歩きずらいかもしれなかった。
「じゃあ、その漁村で休めるのかい?」
タッカーは喜び溢れる声を出した。
「ま、そのはずなんだがな。
戦争でどうなってんのか、ちょっと、そこまでは判んねーんだよ」
タフタの言葉にミカも、
「ピンキーたちが何か手を回してる可能性もあるから、村人の言葉も、迂闊に信じない方が良いかもしれないわ」
そーだよなー、とタフタ。
「普通は気の良い連中なんだが、こードタバタしてると、やっぱ村の利益とか考えなくっちゃならねーんだよな。
状況が込み入っているからな」
確かに、戦争、ピンキーなど様々な異常事態が重なっていて、チェコたちも身の振り方を間違うと、かなり面倒な事に巻き込まれることは充分に有り得た。
曲がりくねったヒイラギの道を降りていくと、ヒイラギ林の隙間から湖面が見えた。
随分、湖に近づいてきていた。
空はまだ星が輝いているが、湖の先の空は少し青くなりつつあった。
「そろそろ夜明けねぇ」
キャサリーンも呟く。
「村の漁師は、もう起きている時間だ。
人に会ったら、少し話してみて、どんな風だか確かめるべきだろうな」
とタフタは言った。




