召喚
蛭谷は、友好関係にあった杣人の村の若者を襲い、今、双方は交戦状態になっている。
近づけば、ヤバい事になるかもしれない。
「えー、俺、こんな遠くまで来た事無いけど、近いのかなぁ…」
「、、あたしも、赤竜山は初めてよ、、」
ちさも言う。
「、、でも、判っていてヒヨウが選んだのだから、危険はないのじゃないかしら、、」
それも、そうだった。
「パトス。
左腕の臭いは?」
「…だから風下の臭いは判らない、と言っただろ…!」
パトスは怒って、鼻でチェコの耳をガシガシ突いた。
「痛い、痛いよパトス!」
「…だが、今のところ追ってきてはいないようだ…」
パトスの目は、人間よりも広く周りを見ることが出来る上、夜目も利いた。
だからチェコは、月の無い夜でも草原を安全に歩くことが出来た。
思ったより大きなダメージを与えていたのかな?
チェコ自身の見積りでは、せいぜい十ライフマイナスぐらいの感じだと思ったが?
或いは、何らかの理由で、電気に弱い、という事も有り得たが、そんな奴が悪人として生きていけるのか、ちょっと謎だった。
どう見ても強い奴なハズだし、強い奴はタフネスも大きいはず、と思うのだが。
「…油断するなチェコ…。
何処かできっと、仕掛けてくる…」
ん、と喉の奥で答えて、チェコは加速した。
やはりパトスも、少しおかしいと思っているようだ。
チェコの隣にはスズメバチが飛んでおり、肩にはリスが乗っている。
またハンザキもチェコから少し離れて砂を滑っていた。
「奴が回復出来なければ、召喚獣もいるから手をこまねいている、って感じかもだよね。
もう少し、召喚しようか…」
「…チェコ、敵の状況が判らないのに!迂闊にアースを使うな…」
パトスの言葉に頷き、
「大丈夫。
ウサギを一匹づつ召喚するから」
「…ウサギに戦闘力は無い…!」
デュエルなら、一の攻撃ダメージを与えられるウサギだが、現実にはウサギが左腕にダメージを与える手立てはまるでない。
おそらく、壁にもならないだろう。
「へへへ。
金神様用だよ」
そう、チェコの頭上には、プルートゥを痛め付けた金神様が浮いていた。
タップした召喚獣分のダメージを相手に与えられる。
その分では、ウサギは一アースで出せる、しかも逃げるのは得意な、タップ要員だった。
チェコたちは、砂煙を上げて、砂漠を降下していくが、湖はまだまだ先だった。




