黒龍山
「タッカー兄ちゃん、ピンキーたちに捕まったら、どうなるのかな?」
「…そんなの、俺に判るか…」
パトスはなげやりに、答えたが。
「、、でも、すぐには殺さないかもしれないわ、、。
、、お宝が欲しいのだから、人質にとるのじゃないかしら、、」
ちさが教えた。
「そっか!
そうだよね。
奴らは宝が欲しいんだから、タッカー兄ちゃんを殺したりしない。
人質にして、交渉するよね!」
ならば、チェコは早くヒヨウたちと合流した方がいい。
チェコの無事も知らせた方が良いし、皆なら、どうタッカーを奪回するか、良い知恵も持っているはずだ。
全員でかかれば、きっとタッカーを救えるだろう。
カーブを曲がると、砂漠はなだらかな下りに差し掛かっていた。
ゆっくりと、視界が大きく開けてくる。
右側には、広大な山裾が見えてくる。
こんもりと盛り上がった山裾には、沢山の木が生えている。
「おー、久々に木を見たなぁ」
ずっと岩山ばかり見ていたので、緑が懐かしい。
心なし、空気に森の香りが漂っているのが、今のチェコには、ちゃんと判った。
チェコは、なだらかな砂漠を直滑降で滑って行ったが…。
徐々に、傾斜角がきつくなってきた。
砂漠は今や、砂丘も何もない、一直線に下る道だ。
「ひょうぅぅ!」
砂煙を上げながら、チェコは滑っていく。
先には小さく、湖らしきものも見えてきた。
砂漠の道はかなり広いが、その左右の端は、急角度に折れているように見える。
そして傾斜は、更に急になって眼下の湖まで落ちているようだ。
右側は山裾がチェコの頭上まで延び上がっていて、左は低く、見たところ平地のように見える。
その平らな地面の連なりに湖があり、その奥に平らな森を越えた先に…。
岩山が見えていた。
黒い影のような岩山が、かなり遠いのか、霞むようにおぼろに見えていた。
「ん…。
あれって、まさか黒龍山…?」
チェコは、地元の山を、遥か遠くに眺めていた。
もし、あれが黒龍山だとすれば、リコ村は、とてつもなく遠いところにあることになる。
ダリア爺ちゃんは今頃…、寝てるんだろうな…。
そんな時間に、こんな場所でチェコは斜面を滑り降りていた。
それが、なにかとても不思議だ…。
「…判らないな…」
パトスも呟く。
「、、チェコ、あれが黒龍山なら、それが見えていると言う事は、西側斜面よ、、。
そうだとすると、下には、蛭谷がある方角だわ、、」
ん、とチェコは考える。
頭の中に、地図を浮かべ、現在位置を考える…。
「うわぁ、そうか!
真ん中が古井戸の森で、その途中は蛭谷か!」
とチェコは、悲鳴のように叫んだ。




