リセット
左腕は倒れている。
止めを刺すべきだろうか?
チェコは迷った。
だが、振り返ってジャンプし、砂を滑る。
「…チェコ。
殺した方が良かったんじゃ無いのか…」
パトスが言う。
「奴は、待ってたんだよ」
チェコは、呟くように言った。
「右手を、服の中に入れて隠していた。
ナイフか何かを握ってたんだ…」
それに…。
チェコは思った。
たぶん、あの程度では、人は死なない。
あいつ、見かけほど大怪我は負っていないんだ…。
雷が、そもそも、それほど破壊力のあるスペルではない。
実戦用には、もっと強い攻撃スペルが欲しかった。
一体、いくらお金があれば、俺はスペルランカーになれるんだろう…。
チェコは暗澹と思った。
チェコが滑っている砂漠には、あちこち大きな穴が開き、黒く焦げた砂が細い煙を立ち上げていた。
どうやらピンキーの攻撃は苛烈を極めたものだったらしい。
ヒヨウたちは、たぶん上手く逃げられただろうが、問題はタッカーたった。
あの時、たぶんタッカーは一番後ろだったはずだし、ピンキーたちはタッカーを見逃すようなヘマはしないと思った。
「ねぇパトス。
タッカー兄ちゃんの匂い、判らない?」
聞くが、
「…滑っていたら無理。
匂いは風に運ばれる。
今、前からの風にはタッカーは感じない。
焦げ臭くて、他の誰の匂いも感じない」
下るのは楽な砂漠だが、上がるのは川を遡上するように大変だ。
それに、朝までに湖に着かなければならない。
今、タッカーを探しに上に行くのは不可能たった。
でも、飛行を使えば…、と思いかけるが、その場合は、左腕に見つかるだろう。
今、チェコは中途半端にスペルを使った状況だ。
実戦において、カードの再使用が可能なのが何分後か、チェコは知らない。
たぶん一時間か二時間くらいか?
岩場でプルートゥと戦ったときと、ゴロタの時を考えると、たぶんそのくらいに思える。
タッカーは気になるが、今は他の皆と合流するしか無かった。
もしかすると、チェコが集中的に狙われた分、タッカーは逃げられたのかもしれなかった。




