砂丘の影
「よ…、よしパトス。
スペルを使わなくても奴を交わせたぞ。
いい合図だ!」
チェコの体は、あの一瞬で大量の汗をかいていた。
これが、俗に言う冷や汗、なのだろうか?
「、、チェコ、あいつはタイミングを合わせる練習をしただけかもしれないわ、、」
ちさが言う。
確かに…。
野生の勘が無い分、練習で補おう、と思っているだけかも知れない。
チェコがドゥーガに変身したのだとしたら、やはり何度かタイミングを計るだろう。
チェコの目の前に、巨大な砂丘が迫って来ていた。
大抵の砂丘は、砂が自然に集まっただけのもので、秋に枯れ葉を掃いて集めたように、こんもりと左右対称に盛り上がっているだけだったが、その砂丘は右側が半分、崩れていた。
頂上のすぐ下が砂丘の底であり、星の光りでても影ができる、という事をチェコに教えていた。
チェコは、その影に向かって直進していく。
「…チェコ、崩れるぞ…」
パトスは言うが、チェコは答える。
「一瞬でも奴の目から逃れられれば、それで良いんだ。
金神様を出す」
チェコは早口に説明した。
「そしたら奴も、無傷じゃいられない。
今、奴は、自分が傷つかないと思って余裕を持ってるんだ。
きっと痛い思いをさせてやる!」
空中ではドゥーガが、相変わらず、ぴったりとチェコの背中に貼り付いている。
「…チェコ!
…直線したら、奴に狙われる…」
パトスは言うが、チェコは笑った。
「奴はここでは襲えないんだよ。
砂に突っ込んだら、傷つくのは自分だからね!」
チェコは砂丘にできた大きな影に向かって直進を続けた。
「発動、金神様!」
チェコは叫んだ。
「…チェコ、ドゥーガが羽根を畳んだ…!」
「金神様、俺に五ダメージ!」
チェコは背中を何かに切りつけられたような痛みを感じ、同時に物理的に吹き飛ばされた。
チェコは影の中に転がり込んだ。
「ダメージ転移、ドゥーガ!」
チェコは叫んでいた。
ドゥーガが、ぐちゃり、と砂漠に突き刺さった。
「よし!」
チェコは叫んだが…。
砂埃の中から、左腕が、のそり、と立ち上がった。
「このクソガキが…。
バランバランに切り刻んでくれる…」
と、左腕は、呪文か何かのように、ボソボソと呟いていた。




