巨大
チェコは必死に左右に曲がり、また直進も織り混ぜてドゥーガの目を眩ませた。
いつまで持つかは判らない。
なにしろドゥーガの急降下は一瞬で獲物を襲う。
ただし、このドゥーガは、中身は左腕なので本物のドゥーガの野性的な急降下の勘は無いようで、チェコに二つ頭があるのも判っているため、攻めあぐねているが、何かタイミングを掴めば、仕事は一秒とかからないだろう。
うーん、もしゴロタが召喚できれば、ドゥーガだって、やっつけられるだけどなぁ…。
しかしゴロタは二十アース無ければ召喚できない。
チェコのデッキはエルミターレの岩石でアースを生むデッキだが、エルミターレの岩石はアイテムなので動かせられない。
出てくる本体は、チェコの数倍はある、本当の岩石なのだ。
大喰らいの壺も、チェコが持って歩けるような大きさでは無かった。
つまり、砂を滑りながらでは、チェコのデッキは機能しなかった。
さすがに、こういう状況も特殊だろうから、これをもって実戦不可とは言えないが、背後でゴロタが守ってくれてる、ような状況でないと、チェコのデッキは、まるで動けないのは確かだった。
金神様は?
と、チェコは考える。
金神様自体は空に浮いているし、神なので直接ドゥーガは金神様を攻撃出来ない。
が、タップする召喚獣がリス一匹では、なにも出来ない。
無論、ダメージ転移で金神様に喰らったダメージをドゥーガには飛ばせるが、そうなるとリアルバトルでは体力勝負であり、たぶん、だが左腕の方がチェコより体力はありそうだ。
それでも金神様、プラスダメージ転移は、唯一左腕にダメージを飛ばせる可能性を持ってはいたが、いかんせん頭上にドゥーガが貼り付いている状況でスペルを使うのは危な過ぎた。
今も、一瞬でも隙を作らないように変則的に滑っているのだ。
ドゥーガは一瞬でチェコを殺せた。
ダメだ。
今、スペルは使えない。
チェコの後頭部を、ドロリ、と汗が伝って落ちた。
バブルは早いスペルだったかな?
そんな気もするが、覚えていなかった。
もしドゥーガをバブルに封じ込めれば、少なくとも何秒かは時間は稼げる。
だが早いスペルで無かった場合、たぶんチェコの命はなく、同時にパトスの命も危なくなる。
チェコは考えながらも足を浅くしたり急に深くして急旋回したり、またスキーのように小ジャンプしてターンをし直滑降にうつった。
「…チェコ、奴が羽を畳んだ…!」
パトスの声と共に、チェコは左に折れた。
チェコの斜め前を、黒い巨大な生物が、瞬間、通り過ぎた。
チェコの皮膚が、ビリビリと恐怖で痺れていた。
ドゥーガは、チェコが思っていたよりも、ずっと速く、ずっと巨大だった。




