逃走
「馬鹿め!
俺から逃げられると思うのか!」
左腕は叫び、自身も砂を滑り始めた。
「召喚、森のリス!」
チェコの肩に、ちょん、とリスが乗った。
「アホか! ここでリスなど何になる!」
左腕はチェコを嘲笑い、左腕は懐から何かを出すと、ヒュンヒュンと頭上で回し始めた。
「…チェコ、あれはたぶん鎖…」
細い鎖や、金属で作った紐などに分銅を付けた投てきは、たまに使う者がいる。
リコ村にも名人がおり、木に引っ掻けて登ったり、木の実を取ったり、また戦いならば、無限に使える投てきにもなる。
チェコは目の前に迫った砂丘を避けて、左に曲がった。
そして、即座にスペルを放つ。
「雷!」
チェコを追って曲がった左腕は、砂丘の真下にいた。
左腕の脇をかするように雷光が走る。
「わはは馬鹿め!」
喜び叫んだ左腕の頭上に、砂丘の砂が崩れ落ちて来た。
「よし!」
チェコは叫ぶが。
「…チェコ、たぶんあいつは、あのくらいじゃ死なない…」
チェコはスピードを上げて滑りながら。
「そうだね。召喚スズメバチ!」
飛行召喚獣を出して様子を見た。
砂漠には、大小色々な丘や窪みが出来ているが、それらを極力交わしながら、なるべく一直線に下っていく。
と…、後ろの砂丘から、左腕が飛び上がった。
「よし!
奴はこっちが見えないから、タイムロスを覚悟でジャンプした」
チェコは、微かに出来たリードを喜ぶ。
おおよそ百メートルは離れただろう。
このまま湖まで行けば、ヒヨウたちと合流でき、いくら剣客とはいえ、迂闊に手は出せないだろう。
安心したチェコの背後で、バサッ、と大きな羽根音がして。
左腕に大きな翼が生え、空に上昇した。
「嘘ぅ、あんなのアリ?」
「、、少し魔物の気配がするわ、、。
たぶんプルートゥと同じように、魔物を体に入れている、、」
「うわぁ、人間辞めた奴だったんだ!」
闇夜の中、左腕はするり、と巨大な非行物体になり、みるみるチェコに追い付いて来た。
「ま…、まさか、あれ…」
チェコの声が震えた。
「ドゥーガなんじゃ…」




