鎖
「でもタッカー君。
その髪もなかなか可愛いわよ。
わざとカールさせる人もいるじゃない」
と、キャサリーン。
ハァ、とタッカーは項垂れ、そして首を振る。
当たり前だが、タッカーの癖っ毛は頭皮に密着しているので、微かに揺らめくだけだ。
「これが嫌なんですよ」
「まー判るけど、贅沢な悩みよね」
ミカは、少し笑ってしまいながら言った。
「俺、髪が伸びると邪魔な気がする」
とチェコ。
「山で暮らすにゃあ、そういう髪の方が都合いいぜ」
タフタ。
語りながらも、チェコたちは崖の鎖場までやって来た。
「俺は先に降りて下を見るから、上はタフタが面倒見てくれ」
ヒヨウは言って、軽々と鎖を降りていく。
崖から、チェコが首を出して下を覗くと、なるほど十メートル程下は、灰色の砂地のようだった。
すぐにヒヨウは砂の上にポンと跳んで周囲を見回し、頷いた。
チェコは鎖を伝ってみる。
鎖は、一片がチェコの足の脛程もある。
靴底が鎖の穴に入るし、見かけより楽だった。
軽々と砂地につく。
最後の鎖から、ヒョイ跳ぶと、砂地に足が沈んだ。
「へぇ、これはサラサラな砂だねぇ」
川原でも、なかなか、これほどフカフカの柔らかい砂はない。
もっと普通はゴワゴワした感触だ。
「ああ。
ここの砂は、とても上質なので、もし野鬼がいなかったら、とうに掘られて売られていただろう。
ここまで目の細かい砂は、中々あるものではない」
「砂って売れるんだ!」
チェコは驚くが。
「質による。
ただの砂では売り物にはならないが、珍しい物なら値がつくことがあるのだ。
ただし、それで暮らせるほど高値にはならないだろうが、それでも野鬼がいなかったなら、農閑期などに何もしないよりは、よっぽどマシだから売るだろう。
ここの山も、そうやって石や土、砂を売ってしまい、岩だけが残ったところも結構あるんだ」
話しているうちに、キャサリーンとミカが楽々と降りてくる。
タッカーが、不安げに上から首を出した。
「タッカー、この砂は、お布団みたいよ。
無理そうなら落ちてみれば?」
ミカは笑いながら声をかけた。




