マンドラゴラ
森は、いよいよ暗くなり、頭上の鳥打草も多くなってきた。
光る花だけではなく、ほのかに発光する黄色いキノコが、木の幹にたくさん生えるようになっていた。
気が付くと、湿度も凄い。
やがて足場が途切れると、その先には水の流れがあった。
「これは、さっきの蛇女の淵の滝の川だよ。
でも、絶対飲んじゃダメ」
「どういうことなの?
あたしたち、あそこの淵の水で食事をしたんじゃないの?」
「日光と、滝が、水の毒を抜くんだよ。
でも、それでも生水では飲まないよ」
川まで急斜面に下っているが、チェコたちは川に沿って歩いた。
やがて、なだらかに川に降りていく地形となり、川岸に出た。
相変わらずの密林で、川は、ごく浅い。
一面の砂利道のそこここに、ポコン、ポコンと、人ぐらいの丈がある大きな瘤が生えていた。
「あー、またマンドラゴラが生えてきちゃった…」
チェコがブツブツいう。
「えっ?
これがマンドラゴラなの?」
マンドラゴラは、医師などが使う薬の一種で、何でも地面から引き抜くと悲鳴を上げると言われている。
「そうだよ。
街まで持っていければ、これ一つでも金貨二、三枚にはなるんじゃない?
山には、そういうものはいっぱいあるよ。
持っていければ、だけどね」
「この森で…、こんなもの、抱えてたら…、生きていけない…」
パトスの言う通りだった。
「悲鳴、上げるの?」
「上げるよぅー、聞きたい?」
「聞いたら死ぬんじゃなかったかしら?」
「悲鳴で死ぬわけじゃないんだよ。
マンドラゴラが悲鳴を上げると、トリフィドが集まってくるんだよ」
「トリフィド?」
「歩く植物。
と、言っても凄く遅いから、そんなに怖くは無いんだけど、毒があって、刺さると動けなくなるの。
そのうちに、トリフィドの種を体に植え付けられちゃうんだよ。
だから、たくさん集まってくると、とっても厄介なんだ」
「そうなの。
だからマンドラゴラは高いのねぇ」
「うん。
そんなだから、山の人は、こいうふうに邪魔になったら、こうするんだよ」
言ってチェコは、マンドラゴラに、持っていた木の枝を突き刺した。
ボコン、と音がして、穴が開く。
「根を抜かなきゃ悲鳴は上げないからね」
マンドラゴアは突き崩されて、その残骸を川に撒き、チェコたちは川を渡っていった。




