スペルランカー
教えながらヒヨウは、チェコの頭を上からグイと押し下げた。
「でも…、このままじゃ、見ないで済ませる訳にもいかないよね?」
白い道は、どうやらしばらくは、真っ直ぐ黒姫に向かって直進しているようだった。
「しばらく待ってみよう。
それでも動かないならば、直視しないよう足元を見て進むしかないが、それは危険が大きいからな」
と言いながら、ヒヨウ自身も岩の影に隠れた。
「だけど、どうして急に、ここに現れたのかな?」
チェコが聞くが、ヒヨウは、
「それは黒姫にしか判らない。
彼女は、この針山のあちこちを常に動いて回っているはずなんだ。
一ヶ所に留まっているのは、とても珍しい。
これが遠くならラッキーだったのが、目の前とは不運だな…」
じっ、とチェコたちは音を立てないよう、体もなるべく動かさないようにしている。
が、それは何分も続くと、かなり辛い。
タッカーは、ゆっくりと地面に手をつき、音を立てずに座り込んだ。
「ま、あれが動かないんじゃ、休むしか無いな…」
タフタも腰を下ろした。
「でも見てないと、動いても判らないよね?」
チェコが聞くと、ヒヨウは。
「こうして一本、髪を抜く」
と自分の黒い髪を抜いて、指でつまんで立てた。
「むろん、風か吹いても揺れるのだが、黒姫が動くと髪は引かれて大きく曲がる。
その方向としなり方で動きを計るんだ」
言いながら、ヒヨウも座った。
「ま、水でも飲むとしよう。
どのみち休憩は必要だったのだから、今でも構わない」
言ってリュックから水筒を出し、口に含んだ。
「なんだか隠れんぼしているみたいね」
ミカは悪戯っ子のように、クスリと笑った。
「山って言うのは、始終、隠れたり、探したり、だ」
とタフタ。
「誰もパトスに隠れんぼでは勝てないよ。
隠れても、探しても」
チェコも語る。
「…人間は無能…」
言ってパトスは大欠伸をする。
「ダウンタウンでヤバい奴に追われたら、下水道に逃げるんだ。
とても臭いけどね。
だけど下水道でも決して入っちゃいけない菅が管がある。
小管だ。
本館より上にあるし、乾いていたりするから、皆、入りたがるけど、ドバッと水を流されたら、少しの水でも溺れてしまうんだ」
タッカーも語り出した。




