黒姫
「あー、それ判る!
砂丘の登りって、本当に苦しいよね」
ミカが乗ってきた。
「俺、よく板を持って登って、滑って遊んだけど…」
周囲を警戒しながらも、チェコも語った。
「そうそう。
あたしも子供の頃、ハイヒンの砂浜で砂滑りをして遊んだわぁ」
キャサリーンも話す。
「山の草場では、草滑りをよくするな」
タフタが山の民の遊びを語った。
「そー言う場所は、冬は橇で滑るでしょう?」
キャサリーンは懐かしそうに言う。
ハァ、とタッカーは溜め息をついて、
「あれってさぁ、一瞬の快楽のために、凄い徒労をしてるよねぇ…」
ハハ、とヒヨウは笑い、
「タッカーは、もう少し滑って鍛えた方がいいと思うぞ」
タッカーは、うーん、と腕を組み、
「僕には、そーゆーの解らないんだよなぁ」
大きく眉をしかめて見せる。
「去年の、大雪が降ったときは、パトスと黒龍山までスキーをしに来たよ」
チェコはいうが、パトスは、
「…滑ったのはチェコ…。
俺は隣を走っただけ…」
と、ぼやいた。
「エルフも冬はスキーを常備する。さっき休んだエルフ小屋にスキーもしまってあるんだ。山頂付近なら十月から四月ぐらいはスキーがあった方が早いからな」
ヒヨウは楽しげに語り、白く道に沿って針岩の根本をぐるり、と回った。
が、そこで止まって、手を上げた。
「静かに…。
黒姫がいる…」
ヒ、と誰かが慌てて息を吸い込んだ音がした。
「黒姫って、いつも傍にいるんじゃなかったの…?」
言いながらチェコが、ヒヨウの背中から、外を覗き込んだ。
ほとんど暗黒に近い針岩の石柱の中、それよりも尚暗い存在が、闇の中の、より深い闇として、そこにあった。
巨大だ…。
チェコは思った。
黒姫は、針岩など無いが如く、大きく高く、広がっていた。
「あまり見るな…。
黒姫は、視線を舐める」
「…舐める…?」
チェコの問いにヒヨウは、
「味を知るのだ…、だから視れば、すなわちチェコの味を知る。
味を知られるとな! どこまでも追って来られるんだぞ」




