草
密林に、キャサリーンの盛大な悲鳴が響き渡った。
キャサリーンは、チェコに抱き付いて、豊満な胸でチェコの顔を挟み込んだ。
「大丈夫、大丈夫!
キャサリーンおねぇちゃん、落ち着いて!
あれは、この森の水を飲んだ得物を食べてしまった豹の慣れの果てだよ」
「えっ…、水を飲んだ獲物を食べたぁ?」
「そう、年を取った豹は、段々獲物が取れなくなって、ついに動物森の動かなかくなった獲物を食べてしまうんだ。
時々、そういう肉食獣がいるんだよ」
「なんなの? あれって?」
「ここは動物森。
いろんな動物が、あんな風に、生きながら植物に養分として体と命を吸い取られていく場所なんだ。
皆、臭いに吸い寄せられたり、空腹に耐え兼ねたりして、植物に食べられちゃうんだよ。
でも、水を飲まないで、果実も食べずに、注意して通るだけなら大丈夫。
この森を抜けた先にある窪地が猟師小屋だから、そこまで頑張って進もう!」
「な…、なんて危険な場所を進むのよ…。
他に、なんか道は無いの?」
「ここは利口な生き物は入ってこないから、危ないところさえ知っていれば、一番安全で一番早く猟師小屋まで行けるんだよ」
言っているチェコも、パトスの後ろを忠実に歩いている。
パトスはクンクン臭いを嗅ぎ、用心深く進んでいたが、ぴたり、と足を止めた。
チェコが、持っていた木の枝で、横の草を、バン、と叩くと。
横の茂みが二つに割れて、クマも丸呑みに出来るほどの巨大な顎が、ガシャン! と、飛び出してきた。
周囲には千切れた草が舞い上がっている。
顎は、緑色をしていた。
ほぼ、顎だけの構造のようで、顎がしまった後には、風船のように広がった茎が、茂みから飛び出していた。
どうやら、草の一種らしい。
「な…、なに、これ…」
キャサリーンは、真っ青に固まっていた。
「オオアギト草だよ。
こうやって丸呑みにして、そのまま、ここに根を張って新しい株になるんだ。
でも、失敗したから、この顎は枯れちゃって、株が新しい顎を作るまで一年ぐらいは、もう安全さ」
三人は、既に枯れかけて萎れている顎の横を通って、森の奥へと進んでいった。




