巧み
タッカーが歩いてきた洞窟の奥に向かうと、左側に入り口と同じアーチ型の扉が見えてきた。
押して開かなかったので引くと、ズズ、と扉の底を擦るように、ゆっくりと重い板戸が開いた。
その真っ暗な空間に、チェコはランタンと首を突き入れた。
「ひょえぇぇ!」
足元は、柱のような太い木の角材が、隙間なくきれいに並んでいた。
三メートルほど先で、飾り気の無い、ネルロプァと同じような木の柵になり、チェコは身を乗り出して見てみるが、闇しか見えない。
床の一部には、人が跨げるほどの穴が空いていた。
音がする。
水が、かなりの早さで流れる、ザァザァという音だ。
どうやら闇の下には、大きな流れがある様子だ。
「ふーん、貧乏な俺の家でも椅子式だったのに、穴式なんだなぁ…」
チェコは、しげしげと穴を見てみた。
穴は、丸く、スベスベに磨き上げられていた。
床もきれいに磨かれ、ツルツルに光っている。
「あれ!」
柱のような棒が、ただ石壁に刺さっているのかと思ったら、よく見ると縦に並ぶ角材の中に、何本か横木が走っている。
が、よほど見ないと判らないほど、微かな溝も無いぐらいにピッタリと合わさって、触っても水平だった。
出入り口は洞窟よりも僅かに高く、石と木の継ぎ目も驚くほどピッタリしていた。
「イヤー良い仕事だねぇ」
チェコはホクホクと戻ってきた。
「便所なんて、見ても仕方ないだろ」
タフタは呆れるが、チェコは見てきたことを、特に床材の木の渡し方などを語った。
「ああ。
それは尺を合わせて、しっかり組み込んでいるんだ。
釘は一本も使ってないんだぞ」
ヒヨウは自慢気味に話した。
「…僕は、とても、そんな所は全く見てなかったよ…」
とタッカーは弱々しく言う。
「気づかない方が正常でしょう」
ムス、とミカが呟く。
ヒヨウは、天井から吊るした木の棒に鍋をかけていたが、湯が沸くと、干し飯を、ざら、と入れた。




