動物森
キャサリーンは、崖から蛇女の淵を見下ろして。
「結局、蛇女なんていないのね…」
と、呟いた。
「俺も見たことないけど、いるって話だよー」
チェコが囁く。
「毎年、何人か…ここで、水死体…」
パトスも言う。
「淵の近くで、蛇女の話はしない方がいいんだって…。それより…、さ」
滝の上はゴツゴツした岩場だったが、川は蛇行して森の中に消えている。
そこは、動物森といわれる森だった。
「森に入るけど、森の中で水を飲んだり、なっている果物を食べたりしちゃあ、絶対に駄目だからね」
「そんなことしないわよぅ」
キャサリーンは、笑った。
森の中は、とてつもない密度の濃い緑の世界だった。
木々の下生えに、見たことも聞いたことも無いような植物が、無数に極彩色に茂っている。
不思議な赤色の巨大な花が、木の枝からずり落ちるように分厚い花びらを垂れていたり、奇怪な果実が、爛れた皮膚のように赤くぬめって、たわわに実っていたりしていた。
「変わった場所ねぇ…」
「うん…。変わってるんだよ」
何か、強烈に甘い香りが漂ってくる。
「やだ!」
キャサリーンは、咄嗟、チェコの肩を掴んだ。
「あ…、あそこに、豹がいる…」
囁いた。
「あー。
うん、いるねぇ…。
でも、大丈夫だよ、先を急ぐよ!」
チェコは、ずんずん豹に近づいていく。
「ちょ、っと待ってよ。
そんなに近づいたら危ないじゃないのよ」
「平気、平気。
だって…」
チェコが言った途端、豹の顔から、下顎だけが、ガバッ、と落ちた。




