過失
チェコは臭いを探そうとしていたが、今のところ感じ取れなかった。
俺たちの事に気がつかないのだろうか?
パトスは、片牙は上にいる、と言った。
この崖の上、というと、たぶん赤竜山の本当の頂上辺りか?
戦争、とかピンキーたちが忙しく動いているので、上から食べられる魂を物色しているのかもしれない。
「まだ近くにはいないのかなぁ、臭いは感じないね」
チェコはのんびり言うが、パトスは毛を逆立てて飛び上がった。
「馬鹿…、チェコ…、ほんの数メートル上に、崖に足をつけて、地面と水平になって…、立ってる…」
「ええっ、本当!」
チェコは叫んだ。
そこまで近いとは思わなかった。
「そうか…。
風がねーから判らなかったのか」
タフタが唸る。
「、、そうかもしれない、、でも、、それだけじゃなく、、片牙は、、自分の臭いを、、コントロールしているみたい、、。
今、、臭いが無いのは、、チェコたちを狙っているから、、」
ちさは言う。
「ね…、狙っているの?」
チェコは、ヒヤリとした。
「戦争の連中は諦めて、こっちに絞ってんのか…」
タフタは呻く。
「人間が七人も連なって歩いているんだ。
狙われるのは仕方がない。
エルフ小屋はもうすぐだ。
焦らず、歩けば大丈夫だ」
ヒヨウは声を励ました。
チェコの目は、知らず知らず、闇に向かう。
この闇の数メートル先に…。
片牙がいる…!
怖いのも怖いが…。
もしヒヨウの言う通り、向こうは手が出せないのならば…。
見てみたい…。
たぶん一生で、片牙を見られるチャンスなど、そうそう無いはずだ。
チェコは闇を凝視したが。
チェコの前で、ヒヨウがポツリと呟いた。
「見たい、なんて色気を出すなよ。
あれを一度でも見ただけで、心の力が半分になると言われている。
見た、だけで、取り返しのつかない過失なのだからな」




