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スペルランカー  作者: 六青ゆーせー
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犠牲者

パトスの尾は後ろ足の中に畳まれてしまった。


「…チェコ…、俺…、火に塩を落とせない…」


弱々しく呟くパトスに、チェコは、んー、と考え。


「ちさちゃん、パトスの頭に乗って、塩を落としてくれる?」


「、、いいわ、、パトスは、、あたしが守るわ、、」


ちさは、ピョン、とパトスの頭に跳び乗った。


「俺には、まだ臭いは感じない。

まだ奴は遠い、か、或いは風下かだ。

幸い、エルフ小屋はすぐそこだ。

皆、奴はエルフ道には入れないから、出来るだけ道の奥側を歩いて、小屋に向かおう」


ヒヨウは語り、歩き出す。


「走った方が、良くないかな?」


タッカーは心細い声を出すが、ヒヨウは、


「走ると、どうしても体が外側に出やすくなる。

どのみち、スピードは残念ながら奴の方が上なのだ。

我々は注意深く道の奥にいれば、仮に奴が現れても手出しは出来ない。


むしろ慎重に、崖側に出ない事を心がけた方がいい」


言い、足を、むしろ遅めた。


チェコたちは、右手の岩側に貼り付くように前進した。


チェコは、鼻をひくつかせる。


「…少し、臭って来たかも…」


ヒヨウは、


「まだ大丈夫だ。

奴が近づけば、こんな臭いではないからな。

今は堅実に歩く事だけに集中してくれ」


崖に作られた溝は、やがて外側に張り出していく。


ゆっくりと、チェコたちは溝を曲がる。


見まい、と思っても、チェコの目は外の闇を追ってしまう。

その漆黒の中に、今にも、子供の頃から何度となく耳にしていた怪物の姿が現れるかも知れないのだ。


毎年、必ず何人かは、片牙の餌食にならない年はなかった。

被害は、旅人が多いが、杣人が犠牲になることも、近隣の住人が亡くなる事もまれではない。


片牙の犠牲者は皆、全く外傷を負わない。

ただ、冬の湖のように真っ青になり事切れているので、見ればそれと直ぐに判る。


リコ村の住人も一人、チェコがまだ幼い頃、やられた。


その青年は、遠い赤竜山まで、どうやら魚を釣りに出かけたらしい。

いわゆる釣り好き、だったらしく、涙にくれる父母の元に帰ったところをチェコも見た。

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