いる!
山頂からしばらく降りていくと、道は不意に崖に飛び出す。
巨人が道を殴り飛ばしたかのように先は鋭く窪み、その先は暗闇で何も見えない。
「こっちだ」
崖の左のきわに、微かに下る道があるらしい。
ヒヨウはスタスタと、降りていってしまう。
チェコが、ランタンをかざして覗いてみると、下に、三十センチ程の丸岩が一個、闇の中に浮かんでいた。
精一杯にランタンをずらして伸ばしても、その先はまるで見えない。
真っ暗闇に、石だけがポッカリと浮かんでいた。
トン、と岩に足を乗せると、道側に、崖を抉るように、溝が足元を斜め下に走っていた。
チェコは再び、トンと足を溝に落とす。
溝は、階段になって下に続いていた。
幅は五十センチ程で、右手は崖で、その外側には月も星も無い闇だけが広がっている。
後ろでミカが、
「ほら、タッカー行きなさいよ!」
と怒っていた。
「えぇー…」
と怯えた声のタッカーに向かって、
「大丈夫。
ぐるっと回って降りるだけだよ!」
チェコは励ます。
「大きな声を立てんなよ。
戦争中だし、ピンキーだっているんだぜ!」
と、タフタが強めに囁いた。
そうだった、とチェコは口を塞ぎ、代わりに岩の外にランタンを出し、揺らした。
タッカーの靴が岩に乗ったのを見て、安心したチェコが先に向かうと、ヒヨウは溝の先に立っていた。
「もう大丈夫だよ」
「急ぎたいのはやまやまだが、それで怪我でもしたら、もっとスピードダウンになる。
少し、歩く速度を弛めよう」
「、、チェ、、コ、、」
チェコの肩の上に乗ったちさが、囁いた。
「あ、ちさちゃん、どうしたの?」
「、、近いわ、、片牙が、、近くにいる、、」
チェコとヒヨウは顔を見合わせた。
「エルフ道に片牙は入れないはずだが、奴は岩でも崖でも、自由に歩き回れる。
皆にも伝えよう」
タッカーたちが集まると、ヒヨウが話した。
「たぶん岩の上か下か、その辺りに居やがるんだな。
でも、臭いはしねーな…」
タフタの言葉に、パトスが叫ぶ。
「いや…、上に…いる!」




