回避
「へへ。
戦争のせいで迂闊に近寄れない、とは皮肉だな」
タフタは笑った。
「だが、砂漠でなら少々暴れても判らないかもしれない。
この状況なら、エルフ小屋で日の出を待つ、という選択も有りうるが、どうするか…」
ヒヨウが聞くとタフタは、
「戦争ねぇ。
今夜、何も無かったとしても、人一人が死ぬほどの怪我を負ったんだ。
昼間も臨戦体制だぜ。
たぶん夜が明けても杣人の村にゃ入れんだろう。
蟻塚に行っちまう方が、戦争からも距離をおけるし、いいんじゃないか?
万が一、本当に戦争になんて当たっちまったら、ピンキーなんかより、よっぽど手に負えないからな」
「そうなの?」
チェコは驚いて聞いた。
ピンキーは、相当に強いのでは無かったか?
「そりゃあ、蛭谷も杣人も旧知の仲だからなぁ。
俺ら、手ぇ出せねぇし、どっちかを傷つけちまったら、俺らまで戦争に巻き込まれて、ハジュクに行くどころじゃ無くなっちまう。
戦争なんて、勝手にやっててもらうのが一番だ」
なるほど、そう言われれば、そうかもしれない。
「なんだか大変な事になっちゃったねぇ…」
タッカーは、不安そうに呟いた。
「旅なんて、何かしらの問題は起こるものよ。
砂漠に逃げられるなら、それが一番だわ。
急いでむかいましょう」
キャサリーンが言った。
ミカは厳密にはキャサリーンが雇っている訳ではないが、一人で別行動をとれる状況ではない。
一行は、エルフ小屋に向かって、岩場の道を歩いた。
チェコは、ランタンで足元を照らしながら、
「暗いから、どこが白い道か、まるで判らないよ」
「ああ。
ここは既にエルフ道だ。
白い道とは違う。
だがエルフも山神様とは協定があるから、白い道と同じ、と考えていい。
ここには片牙は現れない」
ヒヨウは断言した。




