途方もないこと
「ねぇヒヨウ。
これって、もしかしたらピンキーの策略じゃないかしら?」
ミカが囁く。
「おい、ちゃんと蛭谷の奴って確認したんだろうな?
矢の形、とかなら、誰でも真似られるんだぞ」
タフタが聞いた。
フーネルは、き、とタフタを見上げ、
「判っとるわい。
確かに蛭谷の男、しかもジィダだったと、傷の浅かった二人は言っちゃる。
何で協定を破る、と聞くと、ジィダは、蛭谷を守る、と答えたそうじゃ」
見知った顔で、しかも言葉まで交わした、となると、さすがにピンキーの奇策、とばかりも思えない。
「俺たちはハジュクに向かっている。
ここからエルフ道に入って小屋に寄り、それから砂漠へ向かう。
許可をもらえるか?」
と、ヒヨウも顔を出した。
「む、ヒヨウか。
なんじゃ、エルフと樵が同道とは珍しい景色じゃの!」
二人の横にキャサリーンが飛び出して、
「あたしはエリクサーのキャサリーン。
任務があり、このメンバーでハジュクに向かうよう雇ったのよ!」
と、胸からメダルを出して見せた。
フーネルは、む、と考えたが、
「旅人不問は昔からの杣人の掟じゃ。
ここは通ってよいが、エルフ道にも若いもんが出ちゃる。
そっちは知らぬぞ」
「ああ、構わない」
ヒヨウが言い、チェコたちは階段を降りた。
「だけど、このタイミングで戦争って、何か変だよね」
チェコは囁く。
「変は、山に入ってから、ずっとだ。
山津波や、沢のルートが変わったり、キリキリが鳴いたり、てっきりプルートゥのせいと思っていたが、どうもそればかりでは無いように、今は感じるな…。
蛭谷の連中は、何故、急に杣人に襲いかかったのか?
何かを守りたい、と言うのなら、普通は隣人である杣人には、助けを求めこそすれ、戦争を起こす、というのは理屈に合わない」
ヒヨウは語った。
そうだ…。
第一、協定には、エルフも関わっている、とフーネルは語っていた。
それでは蛭谷はエルフまで敵に回すことになる。
チェコは赤竜山の事まではよく知らなかったが、エルフと山で敵対する、というのは途方もないことのはずだった…。




