卵
「方法なんてあったのか!」
タフタは驚いた。
「ああ。
奴等は塩は大嫌いなんだ。
塩を、自分の周りに、ちょっと盛るように円を描けば、蟻は塩を乗り越えない。
それよりは、山羊の道では白い道が狭いから、よく注意してくれ」
一行は再び、ネルロプァの道を歩き始めた。
ランタンの光りに浮かび上がる飴色の道は、その楕円の形も相まって、何か卵の殻の中を歩んでいるような、不思議な気分にチェコをさせた。
ゴロゴロと、大きな卵の内側を歩いているようだな…。
卵を…。
と、チェコは思う。
俺はいつか、割って外に出られるんだろうか…。
金はない。
キャサリーンが、無事ハジュクの町に着けば、幾らかのお金は貰えると聞いたが、それで必要なカードが揃うかどうかハジュクに行った事の無いチェコには判らない…。
それに…。
俺、ハジュクに住む所なんて無いしなぁ…。
リコ村に帰るしかないのか…。
と思うが、いや、とチェコは思い直す。
こんなチャンスは二度と無いんだ!
馬車でもなるほどハジュクまでは行ける。
だが馬車はダリア爺さんの物だから、俺は泥棒になってしまう。
でも今は、身一つで二ツ角山脈を越えているから、そのままハジュクに住んでも何も問題はない。
ハジュクか、もしくは首都のコクライノへ行き、例え橋の下だっていい、一人立ちするんだ!
そして働いて金を貯め、カードを揃える。
チェコは卵の中で、ごろごろと転がり続けながら考えた。
それともヒヨウについて、二ツ角山脈のガイドでもして金を貯めるべきかな…。
なんにしろリコ村に帰ったら、二度と出られるとはチェコには思えなかった。
だから、これは最後のチャンスなんだ!
俺は絶対、金を手に入れてスペルランカーになる!
琥珀色の卵の中で、チェコの目は、白く光っていた。
「チェコ、聞いているか?」
え、とチェコは、自分が想いに沈んでいた事を知った。
「あ、ちょっと考え事、してた。
何、ヒヨウ?」
「赤竜山に降りたら、まずエルフ小屋で聖なる火を手に入れるから、杣人の村とも山羊の道とも違う道に行くから、注意してくれ」
ああ、判ったよ、と答えながらチェコは、卵に閉じ込められた雛のように、心で大きく身動ぎをした。




